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IN YOUR FACE公式YouTubeでは、ライブ映像が主体であった。
メタルバンドであるのだから、それは至極当然のことである。
しかし初ライブを行ったつくばのライブハウスHAXEの店主、イダはこのバンドを知るにつれ、もっと多彩なチャンネルにした方が注目を浴びることができるのではないかと考えた。
昨今、地方のライブハウスは、バンドの数も客の数も年々減少し、経済的に苦心しているというのがほぼ例外のない実状である。それで閉店に追い込まれるケースも少なくないのだから、これは喫緊の課題でもある。
それを打破するためには、若く、個性的なバンドを育て、前面に出てもらい、活性化を促していくことが必須。従来のように、黙っていても勝手に客が来てくれる時代ではない、というのが持論であった。
突如下妻から現れた若きメタルバンド、IN YOUR FACEはそれを可能とする力を大いに秘めているように思えた。
初めて彼らと出会った日のことは、今もなおはっきりと、覚えている。
ギタリスト朱里の実兄であり、既に都内のメタルバンド界隈では名を馳せていた海里から一通のメールが来たときには、正直大して期待もしていなかった。
何せまだ若すぎる。バンドメンバーは四人中三人が中学生、一人に至っては小学生というのだから期待しろ、といわれても到底無理な話である。少々ヤンチャな子供たちが集まってライブハウスに出ようと決めたいうのは、夏休みのちょっとした冒険、程度の思い付きなのだろう。
そう思って音源を聞かされて、驚いた。
否、驚いた、というよりも咄嗟に疑った、の方が近い。
とかくメロディアスでヘヴィ、技術面での荒々しさはあったが、かえってそれが新鮮味を与えている。だからこそ海里が相当テコ入れをしているか、海里が音源を作ってやったかのいずれかだろう、とそう思ったのだ。
まあ、騙されてやるのも一興かもしれない。
そう考えるには少々あくどい考えがあった。海里の実弟、と銘打ってやれば多少の客は来るに違いないと踏んだのである。
そして迎えたライブ当日。
メンバーを見て、また驚いた。
実弟、だと言っていたのはいかにも可憐な少女であって、しかも金髪碧眼の白人のこれまた目を見張るような美形の男の子がドラム、ボーカルとベースはよく似た同士のいかにも元気そうな兄弟と、非常に個性的な面々であったのである。
しかも茨城弁全開で「よろしくお願いします!」と笑顔で言われた時には、騙されたふりをして集客のタネにしたことに若干の罪悪感を覚えた程であった。
「誰が作曲しているの?」
「朱里だべ」
と言って、ボーカルの大地は女の子を指さす。
「全部?」
「ほだ」
海里の実弟。おそらくは、海里の曲なのであろう。イダはそう思った。だから少々いじめてやろうと思って、
「何を使って作曲してるの? ソフトは?」
しかし朱里は目を瞬かせるだけで答えない。
「ええと、……言えない?」やはりな、と思ったのもつかの間、
「違うべ」大地が答える。
「朱里は喋れねえんだ」
「え?」
「昔っから喋れねえんだ。朱里は」
ルアンも大河もその隣で当たり前の顔して、そうだ、というように頷く。
その間に朱里がポケットからメモを取り出し、
ーーDAW,Steinberg Cubase14
さらさらと書いて見せる。
「そ、そうなんだ。ありがとう。プロでも使っている人が多いやつだね」
「パソコンも最新機種だべ」ルアンがなぜだか自慢げに言った。
この子は白人なのに茨城弁なのか、と思わず吹き出しそうになる。
その時だった。
この個性的な面々を売り出したら、もしかすると音楽そのものだけで売り出すよりも、より多くの耳目を集められる可能性があるのでは。そうすれば、それによってライブハウスの動員も増やせるのではないか。そう思いついたのである。
初ライブは少々卑怯な売り方をしたこともあって、ひとまず成功と言っていいものであった。
チケットは完売。海里の実弟、その情報がイダの思惑通り県内のみならず、都内からも客を呼んでいた。しかも演奏は至極アグレッシブで、エネルギッシュ。彼らの若さがそのまま生かされたステージングだった。
「おめらー! 次の曲さいぐぞー!」
大地が曲の合間合間に叫ぶ茨城弁MCは、多くの客の度肝を抜いた。こんなのは聞いたことがない。
観客はMCの度笑いと共に盛り上がっていく。
曲の合間にルアンがスティックを折ってしまい、そのストックと交換するため少々の時間を確保する必要が出た際には、
「おめら、ちっと俺の話さ聞いでぐれ」と、間を持たせるための即興のMCさえかました。
「うぢの畑で作ってるスイカな。えがくなってきで、明日にでも取ってくべってなった日の翌朝、ハクビシンに喰われでだー! 俺のスイカー! おめに喰わせるためでねー!」
しかもどうやら本気で怒っているのである。
観客は中学生の男の子が全力でメタルを叫び弾き、そして茨城弁で農業MCをすることにすぐに釘付けとなった。
ーーボーカルはこの近くの出身なの?
面白がって観客が聞く。ライブの最中に、である。無論あり得ない話である。
「ほだ! 俺だけでねぐって、みんな下妻だべ! こいづも、こいづも、みんな砂沼のほとりだべ!」
爆笑が広がる。
これは一体何のライブなのか。本当に、メタルバンドなのか。
イダはほとんど恐懼した。
その翌日のことである。
丁寧に、昨日はありがとうございました、とのメールが届いた。
昨夜大暴れしていた大地ではない。弟のベーシスト、大河からである。本当に小学生かと訝るような文面に瞠目したが、その返信がてらイダは進言することにした。
ーー君たちのテクニックは正直まだまだだし、演奏も粗削りすぎる。でも、非常に大きな可能性を秘めている。
それは君たち一人一人の個性だ。もちろん曲は素晴らしい。もしこれが本当に朱里が作曲しているのであれば、彼女には作曲に専念させるべきだ。それと同時に、もっと君たちの人間性の部分を発信していけたら、もっと多くの人たちに聴いてもらえるチャンスが出てくると思う。
昨日の大地のMC、これは秀逸だった。他に類を見ない。客がライブ中にフロントマンに話しかけるなんて、見たことがない。でも、彼にはそれだけの人を惹きつける何かがある。
それから朱里のステージ上のたたずまいも良い。普通メタルバンドであれば、暴れ、煽りしてほしいところだが、彼女の役割は違う。何も口にしないことはおろか、完全なるポーカーフェイスでミステリアスな魅力がある。
それからルアン。あの美貌は武器になる。プレイは正直まだまだ力任せで粗削りだが、体も大きいし筋肉も付き方も日本人のそれとは違っているから、これからの練習次第で大きく上達していけるはずだ。フィジカル面において持っているものは大きい。
そして君、大河。君がバンドの良心であり土台であることは、ステージにおいてもそれ以外においても一目瞭然。君がいなければこのバンドは成り立たない。
だからこれらの個性をアピールしていけば、もっと君たちは大きくなれる。
ーー何言ってんだべ。正直、大河は訝った。
あんちゃんから金を貰ってお世辞を言っているのではないか、否、もっと単純に子どもだから騙そうとしているのではないか、そんなことも思った。しかし結局ライブでは一銭も支払っていないどころか、ノルマが達成できたとかでチケットの売り上げとやらを貰っている。お陰で交通費も昼食代もそれで支払うことができた。
しかも来月もライブをやってくれ、そうイダは言ってきたのである。昨日のライブ映像はこちらでアップしておく。だけど、それだけでは君らの魅力を発信するには足りない。君らは君らでライブ以外の部分の映像を撮って、YouTubeに載せなさい。
イダは本気であった。そして、YouTubeチャンネルのための提案書を送って来たのである。




