結愛は、結愛だった。
十一月。
朝の空気が、少し冷たくなってきた。
ある日。
優月が学校から、大きな紙袋を抱えて帰ってきた。
「ただいまー!」
なんだかテンション高い。
結愛がすぐ飛んでいく。
「なにそれ!?」
優月は、得意げに紙袋を開いた。
中から出てきたのは――
粘土で作った家族の人形。
僕。
唯ちゃん。
優月。
結愛。
四人並んでいる。
しかも。
僕だけ、なぜか転びかけてる。
「またぁ!?」
優月、大爆笑。
「だって、ぱぱっぽい!」
唯ちゃんなんて、椅子から落ちそうなくらい笑ってる。
でも。
その粘土人形は、どれも優しい顔をしていた。
結愛なんて、うさぎの耳までついてる。
「ゆあ、うさぎさん!」
完全に定着。
優月は少し照れながら言う。
「図工で、“だいすきなもの”作る授業だったの」
その言葉に。
僕と唯ちゃんは、一瞬顔を見合わせた。
“だいすきなもの”。
その答えが、“家族”だった。
なんだか胸が熱くなる。
その夜。
みんなで、その粘土人形をテーブルに並べて眺めていた。
結愛が、自分の人形へ話しかける。
「こんにちはー!」
優月も笑う。
「会話してる」
すると結愛。
僕の人形を指差して。
「ころばないでね!」
家族全員、大爆笑。
どこまで浸透してるんだ。
数日後。
今度は、結愛の保育園で“おゆうぎ会”が開かれることになった。
結愛、毎日練習していた。
「うさぎさんするの!」
やっぱり。
当日。
舞台の幕が開く。
小さなうさぎ衣装を着た子どもたち。
そして中央には――
超真剣な顔の結愛。
音楽が流れる。
ぴょんぴょん跳ねる。
ちょっとズレる。
でも全力。
僕と唯ちゃん、完全に親バカ顔。
「かわいい……」
「かわいいねぇ……」
隣の優月は、めちゃくちゃ応援してる。
「ゆあー!!」
結愛、それ聞いてさらにテンション上がる。
結果。
一人だけ動き大きい。
先生、ちょっと笑ってる。
でも。
最後の決めポーズ。
結愛は、両手を広げて満面の笑み。
その瞬間。
会場から大きな拍手が起きた。
舞台を降りてきた結愛は、ドヤ顔。
「できた!」
僕はしゃがんで抱きしめる。
「すごかった!」
結愛、嬉しそうに笑う。
優月も頭を撫でた。
「かっこよかったよ」
結愛は、それが一番嬉しかったみたいだった。
帰り道。
夕焼け空。
結愛は疲れて、僕の腕の中でうとうとしている。
優月は、その横を静かに歩いていた。
ふと。
優月が言う。
「ねえ」
「ん?」
「結愛、がんばってたね」
僕は頷く。
「うん」
優月は少し笑う。
「なんか、うれしかった」
その横顔は、少しだけお姉さんだった。
家へ帰ると。
唯ちゃんが、おゆうぎ会の動画を見返していた。
でも。
途中で止まる。
「……何回見てもかわいい」
親バカ重症。
僕も隣で笑う。
その時。
動画の中の結愛が、突然カメラへ向かって叫ぶ。
『ぷりんたべたい!』
リビング静止。
数秒後。
家族全員、大爆笑。
感動の余韻、全部持っていった。
でも。
そういうところも含めて。
結愛は、結愛だった。




