「おとなになっても、だれかがしんどいときに、やさしくできる人になりたい」
十二月。
町はクリスマスの飾りでキラキラしていた。
でも。
ある朝。
家の中は、ちょっとだけ静かだった。
原因――
優月、風邪。
熱はそこまで高くない。
でも、元気がない。
いつも騒がしいリビングが、少しだけしんとしていた。
結愛も、なんとなく空気を読んで小声。
「ねぇね、だいじょうぶ……?」
優月は布団の中で、小さく頷く。
唯ちゃんは、おでこへ冷たいタオルを乗せながら優しく笑った。
「すぐよくなるよ」
僕は、りんごを剥いていた。
でも。
皮、めちゃくちゃ分厚い。
優月、弱々しく笑う。
「ぱぱ、不器用……」
「病人に言われた」
でも。
笑った顔を見れて、少し安心した。
その日。
結愛は、ずっと優月のそばにいた。
絵本を持ってきたり。
ぬいぐるみを貸したり。
そして突然。
「これあげる!」
お気に入りのうさぎのぬいぐるみを差し出した。
優月は少し驚く。
「いいの?」
結愛、真剣に頷く。
「げんきになる!」
優月は、そのうさぎをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう」
その姿を見ていたら。
僕は、なんだか胸が温かくなった。
小さな優しさって。
ちゃんと人を元気にするんだなって思った。
夜。
熱も少し下がってきた。
優月は、ぼんやり天井を見ながら呟く。
「なんかさ」
「うん?」
「みんながやさしくて、うれしい」
唯ちゃんは、優しく髪を撫でる。
「いつも優月が優しいからだよ」
優月は、少し照れくさそうに笑った。
その時。
結愛が、急に布団へ潜り込んできた。
「いっしょにねる!」
「うつるよー?」
「だいじょぶ!」
謎の自信。
数秒後。
結愛、即寝る。
しかも。
優月へ抱きついたまま。
優月は笑う。
「おもい……」
でも。
なんだか嬉しそうだった。
翌朝。
優月は、かなり元気になっていた。
朝ごはんも食べれる。
笑ってる。
それだけで、家の空気まで明るくなる。
結愛なんて、大喜び。
「ねぇね、ふっかつ!」
完全にヒーロー扱い。
その日の午後。
優月が、ぽつりと言った。
「わたしね」
「ん?」
「おとなになっても、だれかがしんどいときに、やさしくできる人になりたい」
僕と唯ちゃんは、静かに顔を見合わせた。
その言葉は。
きっと。
風邪で寝込んだ数日間の中で、優月が感じたことなんだと思う。
優しくされること。
心配してもらえること。
そばにいてもらえること。
そういう温かさを知った人は。
きっと、誰かにも優しくできる。
僕は笑って言う。
「もうなってるよ」
優月は、少しびっくりした顔をして。
それから照れ笑いした。
窓の外では、雪がちらちら降り始めていた。
寒い冬の日。
でも。
家の中は、ちゃんと温かかった。




