転んでも。 ちゃんと前へ進めばいい。 それを、子どもに教えられている気がした。
十月。
空が高くなって。
町の木々も、少しずつ色づき始めていた。
そして――
運動会の季節。
家の中は、数日前からそわそわしていた。
優月は、リレーの練習中。
結愛は、“おうえんのれんしゅう”中。
「がんばれぇぇ!!」
家でも大声。
僕まで条件反射で走りそうになる。
唯ちゃん、笑いながらお弁当の準備をしていた。
「今年も早起きだねぇ」
運動会当日。
空は快晴。
グラウンドには、元気な声が響いていた。
優月は、クラスの列に並びながら手を振る。
少し照れながら。
でも、嬉しそうに。
結愛は、僕の肩車。
「ねぇねー!!」
全力応援。
声でかい。
周りの保護者、笑ってる。
最初の種目は徒競走。
優月は、スタート前に深呼吸していた。
僕もなんだか緊張する。
ピストルの音。
一斉に走り出す。
優月、一生懸命走る。
転ばない。
よし。
僕、なぜか安心。
結果は二位。
でも。
ゴールした優月の顔は、すごく嬉しそうだった。
「がんばったぁ!」
僕と唯ちゃん、大拍手。
その時。
結愛が突然。
「ぱぱもはしれ!」
嫌な予感。
そしてやってきた――
保護者参加リレー。
唯ちゃん、ニヤニヤしてる。
「期待してるね」
「何を!?」
僕、スタート位置へ。
優月は超応援してる。
「ぱぱー!ころばないでー!」
プレッシャーがすごい。
スタート。
僕、本気で走る。
意外と速い。
「おぉ!?」
自分でもびっくり。
でも。
最後のカーブ。
「あっ」
嫌な予感。
次の瞬間。
ズザァァッ!!
盛大に転ぶ。
砂煙。
静止。
そして――
グラウンド大爆笑。
僕、空を見る。
終わった。
優月、笑いすぎて立てない。
結愛なんて、肩叩いて笑ってる。
唯ちゃん、涙流してる。
でも。
バトンはギリギリ繋いだ。
帰ってきた僕へ、優月が言う。
「ぱぱ、ヒーローみたいだった!」
「転び方が?」
「そこも!」
褒められてるのか分からない。
昼休み。
みんなでお弁当を食べる。
卵焼き。
唐揚げ。
おにぎり。
運動会のお弁当って、なんであんなに特別なんだろう。
結愛は、ほっぺいっぱいにしながら言う。
「おいひぃ!」
優月も笑顔。
僕と唯ちゃんは、その顔を見ながら笑い合った。
午後。
最後の種目。
全校生徒で踊るダンス。
優月は、一生懸命踊っていた。
少し照れながら。
でも、ちゃんと笑って。
その姿を見ていたら。
なんだか胸が熱くなった。
小さかった優月が。
今、こんな風に大勢の中で頑張っている。
ちゃんと前を向いて。
ちゃんと成長している。
運動会が終わる頃には、夕方の空になっていた。
帰り道。
結愛は僕の背中で爆睡。
優月は、金メダルみたいなお菓子を首から下げて歩いている。
「たのしかったね!」
「うん」
僕は笑った。
本当に。
疲れたけど。
すごく、いい一日だった。
その時。
優月が、ふと僕へ言う。
「ぱぱ」
「ん?」
「ころんでも、ちゃんとバトンわたせたね」
僕は少し驚く。
優月は笑った。
「かっこよかったよ」
その言葉に。
僕は、なんだか胸がじんわり熱くなった。
転んでも。
ちゃんと前へ進めばいい。
それを、子どもに教えられている気がした。




