“愛された時間”なんだと思った。
九月。
新学期が始まった。
朝の空気が、少しだけ秋っぽい。
でも。
家の中は相変わらず騒がしい。
「ぱぱー!ハンカチー!」
「ママー!ねぇねがはみがきこかくしたー!」
「かくしてないー!」
朝から事件多発。
僕はネクタイを締めながら笑う。
「平和だなぁ」
唯ちゃん、即ツッコミ。
「どこが?」
その日。
優月は、少し緊張した顔で学校へ行った。
理由は――
クラスで、“将来の夢”について発表するから。
しかも今回は、“夢に向かって今頑張ってること”も話すらしい。
優月は、前の日からずっと練習していた。
「かまないかな……」
「だいじょうぶだよ」
僕が言うと。
結愛まで真似する。
「だいじょぶ!」
なぜかドヤ顔。
放課後。
帰ってきた優月は、玄関を開けた瞬間――
「できたぁぁ!!」
超笑顔。
ランドセル投げそうな勢い。
僕と唯ちゃん、同時に笑う。
「おつかれ!」
優月は、息を弾ませながら話し始めた。
「ちゃんといえた!」
「おぉ!」
「えほんつくりたいって!」
目がキラキラしてる。
その顔を見てるだけで、“頑張ったんだな”って分かった。
でも。
次の瞬間。
優月が吹き出す。
「でもね!」
「うん?」
「“お父さんみたいに、いっぱい笑う人になりたいです”って言ったら、みんな笑った!」
僕、びっくり。
「え、なんで!?」
唯ちゃん、肩震わせてる。
「それ、絶対あとで“よく転ぶ人”も言われたでしょ」
優月、爆笑。
「いわれた!」
全国区だった。
夜。
ご飯を食べながら。
優月は、学校で友達に言われたことを嬉しそうに話していた。
『優月ちゃんの夢、いいね』
『絵、見てみたい!』
その言葉が、本当に嬉しかったらしい。
僕は思う。
“好きなもの”を誰かに認めてもらえるって。
きっと、すごく勇気になる。
その時。
結愛が突然、スプーンを掲げる。
「ゆあもゆめある!」
優月、笑う。
「なに?」
結愛、真顔。
「ぷりんのくににいく」
数秒沈黙。
僕、吹き出す。
「移住計画だった!?」
唯ちゃん、涙出るほど笑ってる。
でも。
結愛は本気だった。
「いっぱいたべる!」
幸せそう。
夜更け。
子どもたちが眠ったあと。
僕と唯ちゃんは、ソファで並んで座っていた。
静かな部屋。
遠くで虫の声。
唯ちゃんが、小さく呟く。
「優月、自分の夢を話せるようになったね」
僕は頷く。
前は、少し照れながら言っていた。
でも今は。
ちゃんと胸を張って、“好き”を話している。
その姿が、なんだか頼もしかった。
僕は、テーブルに置かれた優月のスケッチブックを見る。
そこには。
また家族の絵。
笑ってる僕たち。
少し曲がった線。
でも。
まっすぐな気持ち。
きっと。
優月が描いているのは、ただの絵じゃない。
“愛された時間”なんだと思った。




