きっと未来で、“宝物みたいな普通の日”になるんだろうなって。
冬が終わりに近づいた頃。
優月は、少しずつ“高学年のお姉さん”みたいになってきていた。
朝。
結愛の髪を結んであげている。
「じっとしてー」
「むずかしいー!」
結愛、動く。
優月、苦戦。
結果。
なぜか横だけ跳ねてる。
僕、笑いを堪える。
「アート作品?」
優月、真顔。
「おしゃれ」
唯ちゃん、吹き出す。
でも。
結愛は嬉しそうだった。
「ねぇね、ありがと!」
その言葉に、優月も満足げ。
そんなある日。
学校で、“十年後の自分へ手紙を書く”という授業があった。
優月は、家でもずっと悩んでいた。
「十年後って、むずかしい……」
僕は笑う。
「パパなんて、明日の晩ご飯でも悩むよ」
優月、大笑い。
でも。
少し考えてから、真剣な顔で手紙を書き始めた。
その夜。
結愛が眠ったあと。
優月が、こっそり僕へ聞いてきた。
「ねえ、ぱぱ」
「ん?」
「おとなになるのって、こわい?」
その質問に。
僕は少しだけ考えた。
窓の外には、静かな月。
リビングには、温かい灯り。
僕は、優月の隣へ座る。
「怖い時もあるよ」
優月は静かに聞いている。
「でもね」
「うん」
「大好きな人とか、大事な思い出とかは、ちゃんと残る」
優月は、小さく頷いた。
僕は笑う。
「だから大丈夫」
優月は安心したみたいに笑った。
「そっか」
その後。
優月は、十年後の自分への手紙を書き終えた。
机へ置かれた封筒。
そこには、小さな字でこう書いてある。
『いっぱいわらってますか?』
僕は、その言葉を見て胸が熱くなった。
きっと優月は。
“幸せ”を、ちゃんと笑顔の中に見つけている。
数日後。
家族みんなで、河原へ散歩へ行った。
春が近づいていて。
風が少し柔らかい。
結愛は、石を拾って大興奮。
「ハート!」
見せてくる。
……ただの丸石。
でも。
本人は嬉しそう。
優月は、空を見上げながら歩いていた。
少し背が伸びて。
歩き方も、前より大人っぽい。
その時。
結愛が突然転ぶ。
「あぷっ!」
僕、反射的に走る。
でも。
優月の方が早かった。
「だいじょうぶ!?」
すぐ手を差し伸べる。
結愛は、ちょっと泣きそうだったけど。
優月の顔を見たら笑った。
「へへ」
僕は、その光景を見ながら思う。
昔。
優月も、こうして誰かに手を引いてもらっていた。
そして今。
今度は、自分が“手を差し伸べる側”になっている。
子どもって。
知らないうちに、ちゃんと誰かを守れるようになるんだなって。
帰り道。
夕焼け空。
四人の影が、長く並んでいた。
唯ちゃんが、小さく呟く。
「ずっと続けばいいのにね」
僕は、その言葉に静かに頷く。
でもきっと。
“ずっと同じ”ではいられない。
子どもたちは大きくなる。
夢を見つけて。
いつか、自分の道を歩いていく。
だからこそ。
今、この時間が愛しい。
僕は、優月と結愛の笑い声を聞きながら思った。
今日という日は。
きっと未来で、“宝物みたいな普通の日”になるんだろうなって。




