“いっぱい笑った記憶”があれば、人はまた前を向けるのかもしれない。
冬が近づいてきた頃。
朝、布団から出るのがつらい季節になった。
でも――
子どもたちは元気だった。
「ぱぱ、おきてぇぇ!」
「ねぇね、しゅっぱーつ!」
朝六時。
早い。
僕は布団の中で抵抗する。
「あと五分……」
すると。
結愛が、僕のほっぺをむにーっと引っ張る。
「だめぇ!」
優月まで参戦。
「せんせい、おくれますよ!」
完全に起こされる側になっていた。
リビングへ行くと、唯ちゃんが温かいスープを作っている。
その匂いだけで、少し幸せだった。
「おはよう」
唯ちゃんが笑う。
「今日もにぎやかだね」
「毎日運動会だよ……」
でも。
その騒がしさが、ちゃんと“帰る場所”になっていた。
ある日。
優月が学校から、“将来の夢発表会”のお知らせを持って帰ってきた。
「また発表あるの?」
「うん!」
しかも今回は、“家族への手紙”も読むらしい。
唯ちゃん、すでに涙腺危険。
「絶対泣く……」
当日。
体育館には、たくさんの家族が集まっていた。
優月は少し緊張した顔。
でも。
僕たちを見つけると、安心したように笑った。
順番が来る。
優月は前へ出て、マイクを握った。
小さかった背中が。
少しずつ大きく見える。
「わたしのゆめは、えほんをつくるひとです」
前と同じ夢。
でも。
今回は、その続きを話した。
「かなしいひとも、ひとりじゃないっておもえるおはなしをつくりたいです」
唯ちゃん、もう泣いてる。
僕も胸が熱い。
優月は続けた。
「それは、ままがそうしてくれたからです」
体育館が静かになる。
優月は、少し恥ずかしそうに笑った。
「ぱぱは、いつもいっぱいわらわせてくれます」
僕、少し誇らしい。
でも次。
「たまにすごくころびます」
会場、笑い。
保護者まで笑ってる。
僕、顔を覆う。
「全国公開された……」
唯ちゃん、涙流しながら笑ってる。
そして最後。
優月は、少しだけ声を震わせながら言った。
「わたしは、この家族でよかったです」
その瞬間。
僕は、もう涙を止められなかった。
唯ちゃんなんて号泣。
隣の結愛は、よく分かってないけど拍手してる。
「ねぇね、すごーい!」
発表が終わると、大きな拍手が響いた。
優月は、照れくさそうに席へ戻る。
その顔が、少し大人っぽく見えた。
帰り道。
空気は冷たかったけど、心はすごく温かかった。
結愛は、優月の手を握りながら言う。
「ねぇね、かっこよかった!」
優月は照れ笑い。
「えへへ」
唯ちゃんは、歩きながら何度も涙を拭っていた。
僕が笑う。
「泣きすぎ」
「だってぇ……」
でも。
その涙は、すごく幸せそうだった。
夜。
家へ帰ると。
優月が、ランドセルから一枚の紙を取り出した。
今日読んだ手紙。
そこには、最後にこう書いてあった。
『おとなになっても、いっぱいわらいたいです』
僕は、その文字を見ながら思う。
きっと。
人生には、つらい日もある。
うまくいかない日もある。
でも。
“いっぱい笑った記憶”があれば、人はまた前を向けるのかもしれない。
隣では。
結愛がプリンをこっそり狙っていた。
優月が気づく。
「あっ!」
結愛、逃走。
僕と唯ちゃん、吹き出す。
結局。
どんな感動のあとでも。
この家族は、ちゃんと騒がしかった。




