ケンカ
秋。
空が高くなって。
風が少しだけ冷たくなってきた頃。
優月は、学校で初めて“友達とケンカ”をした。
その日。
帰ってきた優月は、いつもより静かだった。
「ただいま」
声も小さい。
僕と唯ちゃんは、すぐ気づいた。
でも。
無理には聞かなかった。
夕飯の時間になっても、優月は元気がない。
結愛だけは通常運転。
「にんじん、おほしさま!」
形で盛り上がってる。
平和。
ご飯のあと。
僕は、優月と二人で少し散歩へ出た。
夜風が気持ちいい。
しばらく黙って歩いていると。
優月がぽつりと呟いた。
「……ケンカした」
僕は頷く。
「そっか」
「“もうしらない”って言われた」
その声は、少し震えていた。
優月は、友達が大好きだった。
だからこそ、傷ついたんだと思う。
僕は、ゆっくり歩きながら聞く。
「優月は、どうしたかった?」
優月は少し考える。
「ほんとは、なかよくしたかった」
その答えが、優月らしかった。
僕は笑う。
「じゃあ、まだ終わってないかもね」
優月は顔を上げる。
「え?」
「ケンカって、“終わり”じゃなくて、“どうしたいか考える時間”だったりするから」
優月は黙って聞いている。
僕は続けた。
「パパもママも、いっぱいケンカしたよ」
「えぇ!?」
優月、超びっくり。
「でも、“仲良くしたい”って思ったから、ちゃんと話した」
優月は、少しだけ安心した顔をした。
「……そっか」
帰り道。
コンビニでアイスを買う。
優月、ちょっと復活。
単純だった。
家へ帰ると。
結愛が全力で走ってきた。
「ねぇねぇぇ!!」
そして。
優月へ、折り紙を差し出す。
ぐしゃっとしたハート。
「これ、あげる!」
優月は少し驚いて、それから笑った。
「ありがとう」
結愛は得意げ。
「なかなおりハート!」
僕と唯ちゃん、吹き出す。
なんだその万能アイテム。
でも。
その不格好なハートは、すごく温かかった。
翌日。
優月は少し緊張しながら学校へ行った。
そして。
帰ってきた時には、笑顔だった。
「なかなおりした!」
僕と唯ちゃん、同時に笑う。
「よかったね」
優月は嬉しそうに頷く。
「ちゃんと、“ごめん”って言えた!」
その顔が、少し誇らしげだった。
夜。
唯ちゃんは、そんな優月を見ながら静かに言う。
「大きくなるって、“傷つくこと”も増えるんだね」
僕は頷く。
でも。
傷ついた分だけ。
優しくなれるのかもしれない。
優月は今。
少しずつ、“人と向き合うこと”を覚えている。
笑うことも。
謝ることも。
許すことも。
全部。
そうやって、人は誰かと生きていくんだと思った。
その時。
結愛が突然叫ぶ。
「ぱぱ、ごめん!」
僕、びっくり。
「え!?なに!?」
結愛は真顔。
「プリン、たべた」
数秒静止。
冷蔵庫を見る。
……ない。
優月、爆笑。
唯ちゃん、笑い崩れる。
僕は肩を落としながら笑った。
「まあ……正直でよろしい」
結愛、えへへって笑ってる。
今日も、この家は。
泣いたり笑ったりしながら、ちゃんと前へ進んでいた。




