家族は毎日が物語
結愛が突然、ソファの上へ立ち上がった。
「ゆあも!」
僕たち、きょとん。
「ゆあも、ゆめある!」
優月が目を輝かせる。
「なに!?」
結愛は胸を張った。
「うさぎさん!」
沈黙。
そして。
家族全員、大爆笑。
唯ちゃんなんて涙出てる。
「職業なのかな、それ……!」
結愛は納得いってない顔。
「うさぎさん、かわいいもん!」
たしかに。
説得力はあった。
その夜。
優月は、自分の発表のことを何度も話していた。
「きんちょうしたぁ……」
でも顔は嬉しそう。
唯ちゃんは優しく聞いている。
時々うなずいて。
時々笑って。
僕は、その光景を見ながら思う。
“夢”って。
立派じゃなくていいんだなって。
好きなものがあって。
誰かみたいになりたいって思えて。
その気持ちだけで、十分きれいなんだと思った。
数日後。
唯ちゃんの新しい絵本が完成した。
タイトルは――
『うさぎさんの おかえり』
もちろん。
モデルは、あの家族うさぎだった。
優月と結愛、大興奮。
「ゆづきいる!?」
「ゆあもいるー!」
ページをめくるたび、二人は笑う。
小さなうさぎ姉妹。
転びそうなお父さんうさぎ。
優しいお母さんうさぎ。
全部、僕たちだった。
僕は笑う。
「俺、やっぱ転ぶ役なんだ」
唯ちゃん、吹き出す。
「描きやすくて」
「ひどい!?」
でも。
その絵本には、ちゃんと“僕たちの毎日”が詰まっていた。
ケンカした日も。
泣いた日も。
笑った日も。
全部。
優しい色で描かれていた。
読み終わったあと。
優月が、ぽつりと言った。
「これ、だいすき」
結愛もぎゅっと絵本を抱きしめる。
「おかえり、すき!」
唯ちゃんは、その言葉を聞いて静かに笑った。
きっと。
唯ちゃんがずっと描きたかったのは、“すごい物語”じゃない。
誰かが帰りたくなる場所。
“おかえり”って言える温かさ。
そういうものだったんだと思う。
夜。
子どもたちが眠ったあと。
僕と唯ちゃんは、完成した絵本を並んで眺めていた。
表紙には、笑っているうさぎ家族。
その絵を見ながら。
僕は、小さく言う。
「家族ってさ」
「うん?」
「毎日が物語なんだな」
唯ちゃんは、優しく笑った。
「うん」
窓の外では、虫の声。
静かな夜。
でも。
家の中には、今日もちゃんと“幸せの音”が残っていた。
その時。
寝ていた結愛が、突然寝言で叫ぶ。
「うさぎさぁぁん!!」
続いて。
優月の寝言。
「アイスぅぅ……」
僕と唯ちゃん、吹き出す。
結局。
どんな夢を見ても。
この家族は、今日も平和だった。




