きっと、ずっと心に残る
季節は流れて。
優月は小学三年生になった。
結愛も、すっかりおしゃべりになっていた。
朝の家は、毎日大騒ぎ。
「ぱぱー!くつしたないー!」
「ママー!ゆあちゃん、ぱんたべたー!」
「ねぇぇぇ!ジャムぬったぁ!」
情報量が多い。
僕、朝からフリーズ。
唯ちゃんは慣れた顔で笑っている。
「はいはい、一人ずつねー」
でも。
そんな騒がしい朝が、いつの間にか当たり前になっていた。
ある日。
優月が学校から帰ってくるなり、ランドセルを置いて言った。
「ねえ!」
「ん?」
「家族の絵、描く宿題でた!」
結愛、即反応。
「ゆあもかくー!」
クレヨン持って乱入。
リビングは、お絵描き大会になった。
優月は真剣。
まず唯ちゃんを描く。
髪をふわっと描いて。
優しい笑顔。
「ママ、にてる!」
たしかに似てる。
次に僕。
数分後。
優月、吹き出す。
「なんかちがう!」
見せてもらう。
……なぜか僕だけ、やたら転びそう。
しかも汗かいてる。
「だからなんで!?」
優月、大笑い。
「ぱぱっぽい!」
結愛も真似して描く。
ぐるぐるぐる。
そして。
「ぱぱ!」
見せてきた。
……丸だった。
僕、ショック。
「パパ、丸なの!?」
唯ちゃん、笑い崩れる。
「特徴は捉えてる」
「どこが!?」
でも。
結愛は嬉しそうだった。
「ぱぱ、だいすき!」
その一言で、全部許してしまう。
父、弱い。
夜。
絵が完成した。
優月の絵には。
家族四人が並んで笑っていた。
そして端っこには――
うさぎ。
まだいる。
僕は笑う。
「もう家族じゃん」
優月は真顔で頷く。
「うん」
認定されてた。
唯ちゃんは、その絵をじっと見つめていた。
優月が描く家族は。
いつも笑っている。
もちろん本当は。
ケンカする日もある。
疲れる日もある。
余裕ない日もある。
でも。
優月の中には、“笑ってる家族”が残っている。
それが嬉しかった。
その時。
結愛が突然、絵を持って走り出す。
「みせるー!」
勢い余って――
ツルッ。
転ぶ。
僕、反射的に支える。
ギリギリセーフ。
すると優月が叫ぶ。
「ぱぱ、転ばなかった!!」
家族全員、静止。
僕もびっくり。
唯ちゃん、吹き出す。
「成長してる!」
「そこ!?」
結愛は何も分かってない顔で拍手。
「ぱぱ、えらーい!」
褒められ方が赤ちゃんだった。
夜更け。
子どもたちが眠ったあと。
僕と唯ちゃんは、静かな部屋で今日の絵を眺めていた。
クレヨンの匂い。
曲がった線。
大きすぎるうさぎ。
全部が愛しかった。
唯ちゃんは、小さく呟く。
「子どもの絵って、不思議だね」
「うん?」
「“大好き”が、そのまま描いてある」
僕は、その言葉に頷いた。
きっと。
大人になると、うまく隠してしまう。
でも子どもは。
好きなものも。
嬉しい気持ちも。
全部まっすぐ描く。
だから、こんなに温かいんだと思った。
窓の外では、夜風が静かに揺れている。
その隣で。
唯ちゃんが僕へ寄りかかる。
僕もそっと肩を抱いた。
これから先。
優月も結愛も、どんどん大きくなる。
悩む日も。
離れていく日も、きっと来る。
でも。
今日みたいに笑った時間は。
きっと、ずっと心に残る。
そう思えた。




