作文
春休みの終わり。
優月は、少し背が伸びていた。
ランドセルも、前より似合って見える。
結愛はというと――
完全に、お姉ちゃんの真似っ子だった。
優月が歯磨きすれば。
「しゃーしゃー!」
結愛も歯ブラシ。
優月が宿題をすれば。
結愛もノートへぐるぐる。
しかも満足げ。
ある日。
優月が学校の作文を書いていた。
題名は――
“わたしの家族”。
僕と唯ちゃんは、こっそり後ろから覗く。
優月は真剣な顔で、一文字ずつ丁寧に書いていた。
『わたしのかぞくは、いつもうるさいです』
いきなりだった。
僕、吹き出す。
唯ちゃん、肩震わせてる。
優月は続ける。
『ぱぱは、よくころびます』
「なんで作文でも転ぶの!?」
優月、真顔。
「ほんとのこと」
唯ちゃん、大爆笑。
さらに。
『ままは、えほんをつくります』
『やさしいです』
そこまでは良かった。
問題は次。
『でも、ときどき、おこるとこわいです』
唯ちゃん、固まる。
僕、笑い堪えきれない。
「書かれてる書かれてる」
唯ちゃん、顔真っ赤。
「ちょっと優月!?」
優月、けろっとしてる。
「ほんとのことだもん」
子ども、容赦ない。
そして最後。
優月は少し考えてから、ゆっくり書いた。
『でも、いっぱいわらいます』
『だから、だいすきです』
その一文を見た瞬間。
僕も唯ちゃんも、静かになった。
優月は振り返って笑う。
「できた!」
僕は優月の頭を優しく撫でた。
「いい作文だね」
唯ちゃんも、少し目を潤ませながら笑う。
「うん」
その夜。
優月が眠ったあと。
僕たちは、こっそりその作文をもう一度読んでいた。
下手な字。
少し曲がった文章。
でも。
そこには、優月が見てきた“家族の時間”が全部詰まっていた。
笑ったこと。
ケンカしたこと。
転んだこと。
全部。
ちゃんと、この子の中に残っている。
唯ちゃんは、小さく笑った。
「家族ってさ」
「うん」
「完璧じゃなくていいんだね」
僕は頷く。
散らかった部屋。
騒がしい朝。
ドタバタの毎日。
でも。
その中に、確かに幸せがあった。
その時。
隣の部屋から。
ドンッ!!
嫌な音。
僕と唯ちゃん、飛び起きる。
「結愛!?」
急いで行くと。
結愛、ベッドから落ちていた。
でも。
なぜか拍手してる。
「いぇーい!」
優月は隣で爆睡。
しかも寝言。
「……うさぎさん、まってぇ……」
僕と唯ちゃん、顔を見合わせる。
そして。
静かに吹き出した。
今日も、この家は平和だった。




