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家の中が運動会

春が来た。

雪が溶けて。

庭の花が、少しずつ色づき始める。

結愛も、いつの間にか歩けるようになっていた。

……いや。

“走る”に近かった。

トテトテトテ!!

勢いがすごい。

しかも一直線。

だから危ない。

「結愛ストップー!!」

僕が追いかける。

結愛、大笑い。

「きゃはは!」

優月も後ろから参戦。

「まてぇぇぇ!!」

毎日、家の中が運動会だった。

ある朝。

結愛が突然、自分で服を着ようとし始めた。

でも。

頭を出す場所を間違えている。

「……むむっ」

服の中で迷子。

優月、大笑い。

「ゆあちゃん、どこー!?」

結愛、布の中から。

「ねぇぇぇ!!」

救助要請だった。

唯ちゃんは笑いながら服を直してあげる。

「もう、自分でやりたいんだねぇ」

結愛は得意げ。

「じぶん!」

その姿を見ながら。

僕は、優月の小さい頃を思い出していた。

こうやって。

少しずつ、自分でできることを増やしていくんだなって。

ある休日。

家族みんなでピクニックへ行くことになった。

お弁当担当は唯ちゃん。

でも。

優月も手伝いたいらしい。

「ゆづき、おにぎりする!」

結果。

超巨大おにぎり完成。

ほぼ岩。

僕、笑い止まらない。

「でかっ!?」

優月はドヤ顔。

「せいちょうき!」

唯ちゃん、吹き出す。

結愛は、ちっちゃいおにぎりを握ろうとして――

ご飯を全部握り潰した。

「ぺちゃ」

数秒静止。

そして。

自分で爆笑。

「きゃはは!」

もう家族全員笑っていた。

公園へ着くと。

桜が満開だった。

風が吹くたび、花びらが舞う。

優月はその中を走り回る。

「きれー!!」

結愛も真似して走る。

でも五秒後。

転ぶ。

ぺたん。

僕と唯ちゃん、同時に立ち上がる。

でも。

結愛は自分で起き上がって笑った。

「へへっ」

強くなっていた。

お弁当を食べながら。

優月が突然聞いてきた。

「ねえ」

「ん?」

「ゆあちゃん、おおきくなるのはやいね」

僕は頷く。

「そうだね」

優月は少し考えてから、小さく言った。

「なんか、さみしい」

その言葉に。

唯ちゃんが優しく笑う。

「優月も、そうやって大きくなったんだよ」

優月は、桜を見上げながら呟く。

「ずっとちいさいままがいいのに」

僕は少し笑った。

「でも、大きくなるから楽しいことも増えるよ」

優月は黙って考えて。

そして。

小さく頷いた。

「……そっか」

その横顔が。

少しだけ、お姉さんだった。

帰り道。

結愛は疲れて、僕の抱っこで眠ってしまった。

優月は、そんな結愛の頭を優しく撫でる。

「かわいいねぇ」

唯ちゃんは、その二人を見ながら静かに微笑んでいた。

昔。

“未来”なんて想像できなかった。

でも今。

こうして桜の下を歩いている。

笑い声があって。

小さな手があって。

帰る家がある。

僕は、空を見上げる。

春の光が、優しく街を照らしていた。

その隣で。

唯ちゃんが、そっと僕の手を握る。

僕も握り返した。

これから先も。

きっと色んなことがある。

でも。

この家族となら。

どんな季節も、ちゃんと笑って歩いていける気がした。

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