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おかえり

冬の始まり。

家の中は、出産の準備で少しずつ変わっていった。

小さな肌着。

小さな哺乳瓶。

小さな靴下。

その全部が、結愛を待っていた。

優月は毎日、ベビーベッドを覗き込んでいる。

「まだ?」

「もうちょっとだよ」

「はやくあいたい!」

でも。

その数分後には。

ベビーベッドへ自分が寝転がってる。

「せまっ!」

僕と唯ちゃん、大爆笑。

「優月、もうサイズアウト!」

ある日。

唯ちゃんが、お腹を押さえて顔をしかめた。

「……いたた」

僕、即反応。

「え!?大丈夫!?」

優月もパニック。

「きゅうきゅうしゃ!?」

唯ちゃんは苦笑いする。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと張っただけ」

でも。

その日から、家の空気が少し変わった。

“もうすぐなんだ”

って、みんな感じていた。

夜。

優月が、唯ちゃんのお腹へ耳を当てていた。

「ゆあちゃんー」

しばらく真剣な顔。

そして突然。

「きいた!!」

僕と唯ちゃん、びっくり。

「なに聞こえたの?」

優月、目をキラキラさせる。

「ぐるるるる!」

僕、吹き出す。

「それママのお腹の音!」

唯ちゃん、笑いすぎて涙出てる。

でも。

そんな時間が、愛しかった。

数日後。

ついに、その日は来た。

夜中。

僕は、唯ちゃんに肩を揺らされて起きる。

「……来たかも」

一瞬で眠気が吹き飛ぶ。

外はまだ暗い。

静かな冬の夜。

でも。

家の中だけ、心臓の音みたいにドキドキしていた。

僕は慌てて準備を始める。

バッグ。

母子手帳。

タオル。

……でも焦りすぎて、自分の財布を冷蔵庫へ入れる。

唯ちゃん、痛みの合間に笑ってる。

「先生、落ち着いて……っ」

優月も起きてきた。

髪ぼさぼさ。

眠そう。

でも。

状況を見て、すぐ真顔になる。

「……ゆあちゃん?」

僕は頷く。

「うん。会いに行こう」

優月は、小さく拳を握った。

「ゆづき、おねえちゃんする」

病院へ向かう車の中。

唯ちゃんは苦しそうなのに、それでも優月へ笑いかける。

「大丈夫だよ」

優月は、唯ちゃんの手をぎゅっと握っていた。

「まま、がんばれ」

その小さな声に。

僕は運転しながら、少し泣きそうになる。

病院へ着いて。

唯ちゃんは分娩室へ。

僕と優月は、待合室で待っていた。

時計の音だけが響く。

優月は、ずっとソワソワしている。

「まだ?」

「もう少しかな」

しばらくして。

分娩室の奥から、小さな泣き声が聞こえた。

――オギャア。

その瞬間。

世界が、少し変わった気がした。

僕も優月も、顔を上げる。

そして。

優月が、ぽつりと言う。

「……ゆあちゃん?」

僕は、涙が止まらなかった。

「うん」

「生まれた」

数分後。

僕たちは、小さな赤ちゃんと対面した。

小さな手。

小さな指。

小さな泣き声。

結愛は、唯ちゃんにそっくりだった。

唯ちゃんは疲れているはずなのに、すごく優しい顔で笑っていた。

「会えたね」

僕は何度も頷く。

優月は、恐る恐る結愛を見る。

そして。

小さな指を、そっと握った。

結愛の手も、ぎゅっと握り返す。

その瞬間。

優月の顔が、ぱあっと明るくなった。

「……ゆあちゃん、にぎった!」

唯ちゃんが泣きながら笑う。

僕も、もう涙ぐしゃぐしゃだった。

優月は、嬉しそうに結愛へ言った。

「おかえり」

その言葉を聞いた瞬間。

僕は思った。

この子は。

ちゃんと、“家族の中で愛される意味”を知って育ったんだって。

冬の朝日が、病室へゆっくり差し込む。

その光の中で。

僕たち四人の、新しい物語が始まった。

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