結愛
秋の夜。
窓の外では、虫の声が静かに響いていた。
リビングには、ノートとペン。
そして――
再び始まる、“赤ちゃん名前会議”。
優月は、やる気満々だった。
「きょう、きめる!」
唯ちゃんが笑う。
「社長みたい」
僕はノートを開いた。
そこには、今まで考えた名前がたくさん書いてある。
でも。
どれもしっくりくるような、まだ少し違うような。
そんな感じだった。
唯ちゃんは、自分のお腹を優しく撫でながら言う。
「“結”って字は入れたいな」
僕は頷く。
「人との繋がりって意味、いいよね」
優月も真似して頷く。
「いい!」
……たぶん分かってない。
でも嬉しそうだった。
僕たちは、色んな名前を口にしていく。
「結菜」
「結月」
「美結」
すると優月、突然手を挙げる。
「はい!」
「どうぞ」
優月は、すごく真剣な顔で言った。
「“結愛”!」
僕と唯ちゃん、少し驚く。
「ゆあ?」
優月はにこっと笑う。
「“だいすき”ってかんじ!」
その瞬間。
部屋が少し静かになる。
唯ちゃんは、小さくその名前を口にした。
「結愛……」
“結ぶ”の結。
“愛”の愛。
人と人を繋ぐ、愛。
まるで、この家族みたいな名前だった。
僕は、自然と笑っていた。
「いい名前だね」
唯ちゃんの目が、少し潤む。
「うん……すごく好き」
優月は得意げ。
「ゆづき、かんがえた!」
「すごいじゃん」
「てんさい!」
自分で言った。
僕と唯ちゃん、大笑い。
そのあと。
唯ちゃんは、白い紙へゆっくり名前を書いた。
“結愛”
その文字を見た瞬間。
なんだか、本当に赤ちゃんがもうそこにいる気がした。
優月は、その紙をじーっと見つめる。
「ゆあちゃん……」
そして突然。
「いっしょにアイスたべる!」
まだ生まれてない。
でも。
その未来を、もう楽しみにしていた。
夜が更けて。
優月はソファで寝落ちしていた。
うさぎのぬいぐるみを抱えたまま。
僕はその小さな寝顔を見ながら思う。
優月が生まれた時。
僕たちは、“親になる”ことで精一杯だった。
でも今。
家族みんなで、新しい命を迎えようとしている。
笑いながら。
悩みながら。
ちゃんと、“家族”として。
唯ちゃんは僕の肩へ寄りかかり、小さく呟いた。
「結愛かぁ」
「うん」
「優しい子になりそう」
僕は笑う。
「たぶん、もう優月に鍛えられる」
その瞬間。
寝ていた優月が、急に寝言で言った。
「……アイス、だめぇ……」
僕と唯ちゃん、吹き出す。
夢の中でも、食べ物争奪戦だった。
静かな秋の夜。
テーブルの上には、“結愛”と書かれた紙。
その名前は。
これから始まる新しい物語を、優しく照らしている気がした。




