家族が増えるね
夏の終わり。
唯ちゃんのお腹は、もうかなり大きくなっていた。
歩くのもゆっくり。
階段を上がるたび、
「よいしょ……」
って声が出る。
僕は心配で、ついすぐ支えようとする。
すると唯ちゃん、苦笑い。
「そんなおばあちゃんじゃない」
「でも転んだら危ないし」
その会話を聞いていた優月。
突然、唯ちゃんの前に立つ。
「まま!」
「ん?」
「ゆづきが、まもる!」
胸を張ってる。
でも次の瞬間。
自分でカーペットにつまずいて転ぶ。
ドテッ。
数秒静止。
そして。
「……いたい」
僕と唯ちゃん、同時に吹き出した。
「まず自分守って!?」
優月も笑いながら起き上がる。
家の中は、今日もにぎやかだった。
ある夜。
三人で、赤ちゃんのベビーベッドを組み立てていた。
……はずだった。
でも。
説明書が難しい。
僕、苦戦。
ネジ余る。
「なんで!?」
唯ちゃん、笑いを堪えてる。
「先生、不器用すぎる」
優月は隣で応援。
「ぱぱ、がんばれー!」
でも。
応援しながら、ネジ持って逃走。
「持ってかないでぇぇ!!」
リビングを追いかけ回る僕。
唯ちゃん、涙流して笑ってる。
一時間後。
なんとか完成。
僕は達成感でいっぱい。
「できた……!」
すると優月、真顔で一言。
「ちょっと、ななめ?」
僕、崩れ落ちる。
唯ちゃん、大爆笑。
その夜。
完成したベビーベッドを囲みながら、三人で座っていた。
まだ誰も寝ていない、小さなベッド。
でも。
そこには、もう“家族の場所”ができていた。
優月はベッドをじーっと見つめながら聞く。
「ここで、ねるの?」
「うん」
「ちいさいねぇ」
唯ちゃんは優しく笑った。
「優月も、昔こんな小さかったんだよ」
優月、びっくり。
「うそぉ!?」
僕は笑う。
「ほんと」
「ぱぱより?」
「それは当たり前」
優月、大笑い。
でも。
しばらくして、優月は小さな声で聞いた。
「……あかちゃんきたら、さみしくない?」
その声に。
僕も唯ちゃんも、優月を見る。
優月は少し俯いていた。
「ままとぱぱ、とられない?」
唯ちゃんはすぐ優月を抱きしめた。
「取らないよ」
僕も隣で優月の頭を撫でる。
「優月は、ずっと大事」
優月は黙ったまま、唯ちゃんへぎゅっと抱きつく。
その小さな背中が、少し不安そうだった。
唯ちゃんは優しく言う。
「ねえ優月」
「ん?」
「赤ちゃんが増えても、“大好き”は減らないんだよ」
優月はゆっくり顔を上げる。
唯ちゃんは笑った。
「むしろ増える」
その言葉に。
優月は少し安心したみたいに笑った。
「……じゃあ、いっぱい?」
「いっぱい」
「アイスより?」
「たぶんアイスより」
「すごい!」
基準が食べ物だった。
夜。
優月が眠ったあと。
僕と唯ちゃんは、静かな部屋でベビーベッドを見つめていた。
もうすぐ。
また新しい毎日が始まる。
寝不足の日も。
バタバタの日も。
きっと増える。
でも。
その全部を、またみんなで笑いながら越えていくんだと思った。
僕は唯ちゃんの手を握る。
唯ちゃんは、小さく笑って僕の肩へ寄りかかった。
「家族、増えるね」
窓の外では、夏の終わりの風が静かに揺れていた。




