女の子
数週間後。
ついに――
赤ちゃんの性別が分かった。
女の子だった。
病院からの帰り道。
唯ちゃんは、お腹を優しく撫でながら笑っていた。
「女の子だって」
僕も自然と笑ってしまう。
「また家の中、にぎやかになるなぁ」
すると後ろの席で、優月が大興奮。
「いもうとぉぉ!!」
テンションが爆発してる。
家へ帰ると、優月はさっそくお絵描きを始めた。
クレヨンで、ぐるぐる描いている。
「なに描いてるの?」
と聞くと。
「かぞく!」
見せてもらう。
僕。
唯ちゃん。
優月。
そして、小さい赤ちゃん。
……あと巨大うさぎ。
もう家族扱いだった。
唯ちゃんが笑う。
「うさぎ、ずっといるね」
優月は真剣。
「だいじ!」
その夜。
再び、名前会議が開かれた。
優月はもう完全にやる気。
「ゆづき、おねえちゃんだから!」
謎の責任感。
唯ちゃんがノートを開く。
「じゃあ、女の子の名前考えよう」
僕は候補を書いていく。
「陽菜」
「紬」
「結菜」
唯ちゃんも考える。
「優しい名前がいいなぁ」
すると優月。
「うさぴ!」
「だからうさぎ離れて!?」
家族会議、また崩壊。
でも。
その笑い声の中で、ふと唯ちゃんが静かになる。
「ねえ」
「ん?」
「“結”って字、好きかも」
僕はその言葉を聞いて頷く。
“結ぶ”。
人と人を繋ぐ字。
唯ちゃんらしい。
優月も一生懸命考える。
「ゆ……」
「ゆ?」
「ゆい!」
僕と唯ちゃん、少し驚く。
「ママと同じ?」
優月はにこっと笑った。
「まま、だいすきだから!」
唯ちゃん、完全に涙腺崩壊。
「だめぇ……泣く……」
僕も笑いながらティッシュを渡す。
結局その夜は、なかなか名前が決まらなかった。
でも。
それでよかった。
悩む時間も。
笑う時間も。
全部、“家族の思い出”になっていくから。
夜更け。
優月はソファで寝落ちしていた。
小さな手には、赤ちゃんの絵。
その横に。
“おねえちゃん ゆづき”
って、一生懸命書いた文字。
まだ少し曲がってる。
でも。
そこには確かに、“お姉ちゃんになる覚悟”があった。
唯ちゃんは、その紙を見ながら小さく笑った。
「優月、頑張ってるね」
僕は頷く。
「うん」
そして。
唯ちゃんのお腹へ、そっと手を当てる。
中には、まだ小さな命。
でももう。
この家族の笑い声に包まれて、生き始めている気がした。
その時。
寝ていた優月が突然むくっと起き上がる。
僕と唯ちゃん、びっくり。
優月は寝ぼけながら言った。
「……いもうと、アイスたべる?」
そしてまた寝た。
僕と唯ちゃん、吹き出す。
食いしん坊の英才教育、始まっていた。




