表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/302

二人目の子供

ある春の日。

桜が、ゆっくり舞っていた。

その夜。

優月が眠ったあと、唯ちゃんが少しそわそわしていた。

リビングを歩いては座って。

また立って。

僕は不思議に思って聞く。

「どうしたの?」

唯ちゃんは、なかなか言葉を出さない。

でも。

少し照れたように笑って、小さく言った。

「……赤ちゃん、できた」

その瞬間。

時間が止まったみたいだった。

「……え?」

唯ちゃんの目が、少し潤んでいる。

「ほんと」

僕はしばらく何も言えなかった。

胸の奥が、じわっと熱くなる。

嬉しくて。

びっくりして。

いろんな感情が、一気に押し寄せる。

「……ほんとに?」

唯ちゃんは笑いながら頷く。

次の瞬間。

僕は唯ちゃんをぎゅっと抱きしめていた。

「うわぁぁぁ……」

情けない声が出る。

唯ちゃんは笑いながら僕の背中をぽんぽんした。

「先生、泣いてる?」

「泣いてない!」

でも声、完全に泣いてた。

翌日。

問題は――

優月へどう伝えるか。

夕飯のあと。

僕と唯ちゃんは、少し緊張しながら優月の前へ座った。

優月はプリン食べてる。

超ご機嫌。

唯ちゃんが優しく言う。

「優月」

「ん?」

「優月、お姉ちゃんになるんだよ」

優月、停止。

スプーン持ったまま固まる。

僕と唯ちゃん、ドキドキ。

数秒後。

優月、真顔で聞く。

「……おねえちゃん?」

「うん」

「赤ちゃん、くるの」

優月はしばらく考えて――

突然立ち上がる。

「うさぎさんに、へやつくる!!」

僕と唯ちゃん、吹き出す。

まずそこなんだ。

その日から。

優月は、“お姉ちゃんモード”へ突入した。

唯ちゃんのお腹へ話しかける。

「こんにちはー!」

絵本を読んであげる。

「これ、おもしろいよー!」

でも。

次の瞬間には。

「でもゆづきのままだからね!」

って抱きついてくる。

まだちょっと不安なのだ。

ある夜。

優月が小さな声で聞いてきた。

「ぱぱ」

「ん?」

「赤ちゃんきたら、ゆづききらいになる?」

その言葉に。

僕も唯ちゃんも、一瞬胸がぎゅっとなる。

僕はすぐ優月を抱きしめた。

「ならないよ」

唯ちゃんも優月の頭を撫でる。

「大好きだよ」

優月は少し安心した顔をする。

「ほんと?」

「ほんと」

すると優月、少し考えてから言った。

「じゃあ、ゆづきも赤ちゃんすきになる!」

その言葉に、唯ちゃんが泣きそうに笑った。

数か月後。

唯ちゃんのお腹は、少しずつ大きくなっていく。

優月は毎日話しかけていた。

「おなかのあかちゃんー!」

「ゆづきだよー!」

でも。

ある日。

突然お腹へ耳を当てて叫ぶ。

「へんじしてぇぇ!!」

僕と唯ちゃん、大爆笑。

赤ちゃん、びっくりする。

夜。

優月が眠ったあと。

僕と唯ちゃんは、ソファで静かに寄り添っていた。

窓の外には、春の月。

唯ちゃんは、自分のお腹をそっと撫でながら言う。

「また家族増えるね」

僕は頷く。

「うん」

昔。

ネオン街の片隅で出会った二人。

未来なんて見えなかった。

でも今。

笑い声があって。

帰る家があって。

“おかえり”って言い合える家族がいる。

そして。

また新しい命が、そこへやって来ようとしていた。

僕は唯ちゃんの肩を抱き寄せる。

唯ちゃんは小さく笑った。

「にぎやかになるなぁ」

その時。

寝ていたはずの優月が、寝言で突然叫ぶ。

「うさぎさん、だめぇぇ!!」

僕と唯ちゃん、吹き出す。

夢の中でも、うさぎ大騒ぎだった。

静かな夜。

でも。

その家は、これから始まる新しい毎日を、優しく待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ