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小学校

春。

優月は、小学校へ入学した。

新品のランドセル。

少し大きめの制服。

鏡の前で何度もランドセルを背負い直している。

「どう!?」

唯ちゃんは、朝からもう涙目だった。

「かわいい……」

「まだ泣くの早い」

僕が笑うと、唯ちゃんは鼻をすすりながら言う。

「だってぇ……」

でも次の瞬間。

優月がランドセルを開けたまま振り回して、教科書を全部落とす。

バサバサッ。

空気、一瞬崩壊。

僕、吹き出す。

「入学初日から雑!」

優月は真顔。

「ランドセル、おもい」

唯ちゃん、笑いながら床の教科書を拾っていた。

入学式。

校門の前には、桜。

優月は少し緊張した顔で、僕と唯ちゃんの手を握っていた。

「どきどきする?」

と聞くと、小さく頷く。

「……うん」

でも。

教室へ入る前、優月は急に僕を見上げて言った。

「ぱぱ」

「ん?」

「ゆづき、がんばる」

その顔が、少しだけお姉さんに見えた。

式が終わり。

教室で先生の話を聞く優月を、廊下からそっと見る。

ちゃんと椅子に座って。

ちゃんと返事して。

友達と小さく笑っている。

僕はその姿を見ながら、胸がいっぱいになる。

唯ちゃんなんて、完全に泣いていた。

「大きくなったねぇ……」

「うん」

帰り道。

優月はランドセルを揺らしながら、楽しそうに話す。

「ともだちできた!」

「早い!」

「あとね!」

「うん」

「せんせい、おもしろい!」

僕は苦笑いする。

「よかった」

すると優月、急に真顔。

「でも、ぱぱのほうがおもしろい」

唯ちゃん、即ツッコミ。

「それ、転ぶからでしょ」

優月、大爆笑。

数日後。

宿題が始まった。

でも優月。

机へ向かって五分後には。

消しゴムで遊ぶ。

鉛筆並べる。

突然歌う。

全然進まない。

僕が隣で教える。

「ここ、こうだよ」

すると優月、ぷくーっと頬を膨らませる。

「わかってるもん!」

唯ちゃん、小声で笑う。

「先生、家でも先生してる」

でもその数分後。

優月は急に僕へ抱きついてくる。

「ぱぱ、いっしょにやる」

結局、甘えん坊だった。

夜。

宿題を終えた優月は、ソファでうとうとしていた。

ランドセルは床へ転がっている。

その姿を見ながら、唯ちゃんが静かに言う。

「ねえ」

「ん?」

「この子、ちゃんと前に進んでるね」

僕は頷く。

保育園で泣いていた小さな子が。

今、自分の足で学校へ通っている。

友達を作って。

勉強して。

少しずつ、自分の世界を広げている。

僕は眠そうな優月へ毛布をかける。

すると優月が、寝ぼけながら呟いた。

「……うさぎやさん……」

まだ夢、続いてた。

僕と唯ちゃん、顔を見合わせて笑う。

未来がどうなるかは分からない。

うさぎ屋さんになるかもしれないし。

別の夢を見つけるかもしれない。

でも。

どんな未来でも。

優月が“自分らしく笑える場所”へ進めたらいい。

そう思いながら。

僕たちは、小さく眠る娘を優しく見つめていた。

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