パパの鼻
秋の日曜日。
唯ちゃんが朝からやたら張り切っていた。
「今日は絶対撮る!」
「何を?」
「家族写真!」
リビングには、三脚。
カメラ。
うさぎのぬいぐるみ。
なぜか小道具まで準備されている。
僕は苦笑いする。
「気合いすごいな」
唯ちゃんは真顔だった。
「今しか撮れない顔、いっぱいあるから」
その言葉が、少し優しかった。
でも。
現実は甘くない。
まず、優月がじっとしない。
カメラの前に座らせても、
「きゃー♪」
秒で脱走。
僕と唯ちゃん、追いかける。
ようやく捕まえて三人並ぶ。
タイマーセット。
ピピピピ……
その瞬間。
優月、超変顔。
「ぶぇっ!」
変な声まで出してる。
撮れた写真を確認。
僕、半目。
唯ちゃん、笑い崩れてる。
優月、怪獣。
カオス。
唯ちゃん、床で笑い転げる。
「だめっ……っ、お腹痛い……!」
僕も吹き出す。
「家族写真って難しい!」
その後も。
優月が急に寝転がる。
カメラへ突進する。
なぜかうさぎを投げる。
大騒ぎ。
でも。
その全部が、楽しかった。
昼頃。
疲れた優月が、僕の膝の上でうとうとし始める。
唯ちゃんは、その姿を見ながらカメラを構えた。
カシャ。
「今の、絶対いい」
僕は画面を見る。
そこには。
眠そうな優月を抱っこしている僕と、隣で笑っている唯ちゃん。
飾ってない。
ちゃんとしてない。
でも――
すごく、“僕たちらしい”写真だった。
夕方。
撮った写真を、三人でソファに座って見返す。
変顔だらけ。
ブレた写真だらけ。
でも、笑顔もいっぱいだった。
唯ちゃんは、一枚の写真で指を止める。
それは。
僕と唯ちゃんが笑っていて、その真ん中で優月が両手を広げて笑っている写真。
夕陽が、三人を優しく照らしていた。
唯ちゃんは、その写真を見ながら静かに言った。
「これ、宝物だね」
僕は頷く。
「うん」
唯ちゃんは少し笑って、僕の肩へ寄りかかる。
「昔の私ね」
「うん」
「写真って苦手だった」
僕は黙って聞く。
「自分を残したいって思えなかったから」
その言葉に、胸が少し痛くなる。
でも。
唯ちゃんは、今度はちゃんと笑った。
「でも今は、“残したい”って思う」
優月が、写真をぺちぺち叩きながら笑っている。
「ままぁ!」
唯ちゃんは優月を抱きしめた。
「あなたがいるからだよ」
窓の外では、秋の夕焼け。
オレンジ色の光が、部屋を温かく染めている。
僕は、その景色を見ながら静かに思う。
幸せって。
完璧な一枚じゃなくて。
ブレてても、笑い崩れてても――
“この瞬間を残したい”って思えることなんだって。
その時。
優月が急にカメラを持ち上げた。
嫌な予感。
「ゆ、優月……?」
カシャッ。
撮れた写真。
超至近距離の僕の鼻。
唯ちゃん、爆笑。
「新作、“パパの鼻”」
「やめて!!」
家の中に、また笑い声が響いた。




