表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/86

ケンカしても一緒にいたいと、思えるのが家族なんだね!

家族旅行から帰ってきてからも。

山田家は相変わらず、にぎやかだった。

朝。

僕が仕事へ行こうとすると、優月が玄関までヨチヨチ走ってくる。

「ぱぱー!」

ぎゅっ。

足に抱きつかれる。

……行けない。

完全に行けない。

僕が困っていると、唯ちゃんが後ろで笑っている。

「先生、もう遅刻するよ」

「でも優月が……!」

優月はニコニコしながら、僕の靴を隠していた。

最近、“いたずら”を覚えたのだ。

しかも妙に賢い。

ある日なんて、僕の教員用の赤ペンを一本ずつ観葉植物へ刺していた。

ホラーだった。

唯ちゃんは笑いすぎて床に転がっていた。

「芸術的……っ!」

「どこが!?」

そんな毎日。

でも。

ずっと笑ってばかりじゃなかった。

ある夜。

優月が熱を出した。

小さな体で、苦しそうに息をしている。

僕も唯ちゃんも、不安でほとんど眠れなかった。

交代で抱っこして、水を飲ませて、何度も熱を測る。

夜中の三時。

疲れが限界に来ていた。

僕が「病院に電話した方がいいかな」と言うと、唯ちゃんが少し強い口調で言った。

「さっき相談したでしょ」

「でもまた熱上がってるし」

「少し様子見って言われたじゃん」

その声に、僕もついイライラしてしまう。

「俺だって心配なんだよ!」

部屋が、一瞬静まり返った。

優月の小さな寝息だけが聞こえる。

唯ちゃんは俯いたまま、何も言わなかった。

その姿を見て。

僕はすぐ後悔した。

疲れてるのは、唯ちゃんも同じなのに。

しばらくして。

唯ちゃんが、小さな声で言う。

「……ごめん」

その一言で、胸が苦しくなった。

僕は首を振る。

「違う。ごめん、俺」

唯ちゃんの目には、少し涙が浮かんでいた。

「怖かったの」

僕は黙って隣に座る。

唯ちゃんは、眠る優月の小さな手を握りながら続けた。

「この子が苦しそうだと、代わってあげたくなる」

その声が震えていた。

僕も、同じ気持ちだった。

僕はそっと唯ちゃんの肩を抱く。

「一緒に頑張ろう」

唯ちゃんは、小さく頷いた。

その時。

優月が寝ぼけながら、

「……ぱぱぁ……ままぁ……」

って呟いた。

僕と唯ちゃん、固まる。

そして次の瞬間。

二人とも泣きながら笑ってしまった。

「寝言で仲直りさせられた……」

「優月、強い……」

数日後。

優月の熱は下がった。

元気復活。

むしろ元気すぎた。

ソファへ登る。

降りる。

転ぶ。

笑う。

完全復活。

唯ちゃんは、そんな優月を抱きしめながら泣いていた。

「元気でよかったぁ……」

すると優月、唯ちゃんの涙を指で触って。

「ままぁ、えーん?」

って不思議そうな顔をする。

唯ちゃん、さらに泣く。

僕も笑いながら、二人を抱きしめた。

その夜。

優月が眠ったあと。

僕と唯ちゃんは、静かなリビングで温かいお茶を飲んでいた。

唯ちゃんがぽつりと言う。

「家族ってさ」

「うん」

「楽しいだけじゃないね」

僕は頷く。

「うん」

「でも」

唯ちゃんは、優しく笑った。

「ケンカしても、“一緒にいたい”って思えるのが家族なんだね」

僕はその言葉を聞きながら、唯ちゃんの手を握る。

昔の僕たちは。

孤独で、自分の居場所を探していた。

でも今は違う。

笑って、泣いて、ケンカして。

それでも最後には、同じ場所へ帰ってくる。

その温かさを、僕たちは少しずつ覚えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ