ケンカしても一緒にいたいと、思えるのが家族なんだね!
家族旅行から帰ってきてからも。
山田家は相変わらず、にぎやかだった。
朝。
僕が仕事へ行こうとすると、優月が玄関までヨチヨチ走ってくる。
「ぱぱー!」
ぎゅっ。
足に抱きつかれる。
……行けない。
完全に行けない。
僕が困っていると、唯ちゃんが後ろで笑っている。
「先生、もう遅刻するよ」
「でも優月が……!」
優月はニコニコしながら、僕の靴を隠していた。
最近、“いたずら”を覚えたのだ。
しかも妙に賢い。
ある日なんて、僕の教員用の赤ペンを一本ずつ観葉植物へ刺していた。
ホラーだった。
唯ちゃんは笑いすぎて床に転がっていた。
「芸術的……っ!」
「どこが!?」
そんな毎日。
でも。
ずっと笑ってばかりじゃなかった。
ある夜。
優月が熱を出した。
小さな体で、苦しそうに息をしている。
僕も唯ちゃんも、不安でほとんど眠れなかった。
交代で抱っこして、水を飲ませて、何度も熱を測る。
夜中の三時。
疲れが限界に来ていた。
僕が「病院に電話した方がいいかな」と言うと、唯ちゃんが少し強い口調で言った。
「さっき相談したでしょ」
「でもまた熱上がってるし」
「少し様子見って言われたじゃん」
その声に、僕もついイライラしてしまう。
「俺だって心配なんだよ!」
部屋が、一瞬静まり返った。
優月の小さな寝息だけが聞こえる。
唯ちゃんは俯いたまま、何も言わなかった。
その姿を見て。
僕はすぐ後悔した。
疲れてるのは、唯ちゃんも同じなのに。
しばらくして。
唯ちゃんが、小さな声で言う。
「……ごめん」
その一言で、胸が苦しくなった。
僕は首を振る。
「違う。ごめん、俺」
唯ちゃんの目には、少し涙が浮かんでいた。
「怖かったの」
僕は黙って隣に座る。
唯ちゃんは、眠る優月の小さな手を握りながら続けた。
「この子が苦しそうだと、代わってあげたくなる」
その声が震えていた。
僕も、同じ気持ちだった。
僕はそっと唯ちゃんの肩を抱く。
「一緒に頑張ろう」
唯ちゃんは、小さく頷いた。
その時。
優月が寝ぼけながら、
「……ぱぱぁ……ままぁ……」
って呟いた。
僕と唯ちゃん、固まる。
そして次の瞬間。
二人とも泣きながら笑ってしまった。
「寝言で仲直りさせられた……」
「優月、強い……」
数日後。
優月の熱は下がった。
元気復活。
むしろ元気すぎた。
ソファへ登る。
降りる。
転ぶ。
笑う。
完全復活。
唯ちゃんは、そんな優月を抱きしめながら泣いていた。
「元気でよかったぁ……」
すると優月、唯ちゃんの涙を指で触って。
「ままぁ、えーん?」
って不思議そうな顔をする。
唯ちゃん、さらに泣く。
僕も笑いながら、二人を抱きしめた。
その夜。
優月が眠ったあと。
僕と唯ちゃんは、静かなリビングで温かいお茶を飲んでいた。
唯ちゃんがぽつりと言う。
「家族ってさ」
「うん」
「楽しいだけじゃないね」
僕は頷く。
「うん」
「でも」
唯ちゃんは、優しく笑った。
「ケンカしても、“一緒にいたい”って思えるのが家族なんだね」
僕はその言葉を聞きながら、唯ちゃんの手を握る。
昔の僕たちは。
孤独で、自分の居場所を探していた。
でも今は違う。
笑って、泣いて、ケンカして。
それでも最後には、同じ場所へ帰ってくる。
その温かさを、僕たちは少しずつ覚えていった。




