お家は誰かが、待ってくれている場所!
でも。
そんな僕たちを見ていた優月は、次の瞬間にはもう泣き止いていた。
しかも――
「きゃっ♪」
笑ってる。
唯ちゃんが優月を抱っこしながら呆れる。
「絶対わざとだ」
「将来、大物だな……」
優月は、うさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱えながらご機嫌だった。
その姿を見て、唯ちゃんは急いでスケッチブックを開く。
「今の描きたい!」
「早っ!」
鉛筆を走らせながら、唯ちゃんは笑っていた。
“うさぎさんに つっこんで
びっくりした ゆづきちゃん”
絵の中の優月は、ぷくっとした顔で泣いている。
でも次のページでは、ケロッと笑っていた。
僕は吹き出す。
「再現度高い」
「でしょう?」
唯ちゃんは本当に楽しそうだった。
それから数か月。
唯ちゃんの絵本は、少しずつ完成していく。
タイトルも変わった。
『おかえり、パパ』
最後のページには。
仕事帰りで疲れている“うさぎパパ”へ、子うさぎが走っていく絵。
そして、その後ろで笑う“うさぎママ”。
文章は短かった。
“おうちは
だれかが まっていてくれる
ばしょ”
そのページを読んだ時。
僕は、しばらく何も言えなかった。
唯ちゃんは少し不安そうに聞く。
「……どうかな」
僕は静かに答える。
「ずるい」
「え?」
「こんなの泣く」
唯ちゃんは、ふふっと笑った。
「あなた、涙もろくなったよね」
「誰のせいだと思ってるの」
その時。
優月がハイハイしながら、僕の足に突撃してきた。
ゴンッ。
「痛っ」
すると優月、自分でぶつかったのに泣く。
「ふぇぇぇぇん!」
僕は慌てる。
「え!? パパ悪くないよ!?」
唯ちゃんは大爆笑。
「優月、理不尽すぎる!」
僕が抱っこすると、優月はすぐ泣き止む。
そして僕の顔をぺちぺち触りながら笑った。
「たーた!」
僕と唯ちゃん、固まる。
「……今」
「うん」
「“パパ”って言おうとした?」
次の瞬間。
二人で大騒ぎ。
「録音したかった!!」
「もう一回!もう一回言って優月!」
でも優月は、もう興味がなくなったのか、うさぎのぬいぐるみを追いかけていた。
自由すぎる。
夜。
優月が眠ったあと。
僕と唯ちゃんは、完成した絵本を並んで見ていた。
ページには、笑ってる家族。
転ぶパパ。
笑う赤ちゃん。
泣きながらミルクを作るママ。
全部、僕たちだった。
唯ちゃんは僕の肩にもたれながら、小さく言う。
「ねえ」
「ん?」
「昔の私、“幸せな家族”って絵本の中だけだと思ってた」
僕は黙って聞く。
唯ちゃんは、優しく笑った。
「でも今は、ここにあるね」
僕はそっと唯ちゃんの手を握る。
リビングには、優月の寝息。
テーブルには、家族の絵本。
窓の外には、優しい夜。
僕は静かに思う。
幸せって。
完璧な毎日じゃなくて。
笑ったり、泣いたり、転んだりしながら――
“おかえり”って言い合えることなんだって。




