家族の絵本
優月が生まれて半年。
家の中は、毎日にぎやかだった。
「きゃー♪」
優月は最近、声を出して笑うようになった。
しかも――
なぜか僕が転ぶと、一番笑う。
ある朝。
僕は急いで学校へ行く準備をしていた。
「やばい、遅れる!」
靴下を履きながら移動しようとして――
ツルッ。
ドンッ。
盛大に転ぶ。
その瞬間。
優月、大爆笑。
「きゃはははっ!」
唯ちゃんも吹き出す。
「優月、めっちゃ笑ってる!」
僕は床に倒れたまま言う。
「パパの威厳……」
すると優月、さらに笑う。
もう完全にエンタメ扱いだった。
そんな毎日を見ながら。
ある日、唯ちゃんが突然言った。
「ねえ」
「ん?」
「家族の絵本、描こうかな」
僕はミルクを作りながら振り返る。
「俺たちの?」
「うん」
唯ちゃんはソファで眠る優月を見つめながら、優しく笑った。
「ドタバタだけど、今しかない気がして」
その数日後。
リビングには、大量のスケッチブックが広がった。
タイトルは――
『パパはまいにちたいへんです』
僕は二度見した。
「ちょっと待って」
唯ちゃんは真顔でページを見せてくる。
そこには。
寝不足でゾンビみたいな顔の“うさぎパパ”。
「ふらふらです」
って書いてある。
僕は吹き出した。
「悪意ある!」
「事実です」
さらにページをめくる。
“あかちゃんを ねかしつけようとして
パパが さきに ねました”
絵の中の僕、完全に口開けて寝てる。
唯ちゃん、笑いながら続きを描いていた。
「優月、その時めっちゃ元気だったもん」
「覚えてるけど!」
しかも最後のページ。
“でも パパは だれよりも
このおうちが だいすきです”
その絵には。
優月を抱っこしながら眠る僕と、隣で笑う唯ちゃん。
そのページを見た瞬間。
僕は、少し言葉が出なくなった。
唯ちゃんは鉛筆を置きながら、小さく笑う。
「毎日ぐちゃぐちゃだけどさ」
「うん」
「それでも、“幸せだったなぁ”って思える日々を残したい」
窓の外では、柔らかい夕暮れ。
優月はベビーベッドの中で、すやすや眠っている。
僕は静かに言った。
「絶対、いい絵本になる」
唯ちゃんは少し照れた顔をした。
「ほんと?」
「うん」
「……そっか」
その時。
優月が寝返りを打って――
ボフッ。
うさぎのぬいぐるみに顔面ダイブした。
一瞬静まる空気。
そして。
「ふぎゃぁぁぁん!!」
大泣き。
僕と唯ちゃん、同時に立ち上がる。
「優月ー!?」
「だいじょうぶ!?」
大慌て。
でも。




