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優月 ゆづき

夜。

寝室の灯りだけが、やわらかく部屋を照らしていた。

唯ちゃんはベッドにもたれながら、赤ちゃんの名前が書かれたメモ帳を眺めている。

「いっぱい考えたねぇ」

ページには、二人で書いた名前がたくさん並んでいた。

優しい字。

丸っこい字。

途中でふざけて書いた変な名前まである。

僕は笑う。

「“うさぴょん”は絶対却下」

唯ちゃんは吹き出した。

「冗談だもん!」

「赤ちゃんかわいそう」

「でも呼びたくなるかも」

そんなくだらない会話が、幸せだった。

しばらくして。

唯ちゃんが、一つの名前を指でなぞる。

“優月”

その文字を見た瞬間。

不思議と、二人とも静かになった。

唯ちゃんが小さく呟く。

「……ゆづき」

僕も、その名前を口にする。

「優月」

音にした瞬間、胸がじんわり温かくなった。

窓の外には、丸い月が浮かんでいる。

唯ちゃんは、お腹を撫でながら笑った。

「優しい月、って感じ」

「唯ちゃんっぽい名前だね」

「えー?」

「だって、柔らかい」

唯ちゃんは少し照れて、僕の肩にもたれかかる。

「この子、女の子だったら、“優月”にしようか」

僕はゆっくり頷いた。

「うん」

その返事だけで、胸がいっぱいになる。

唯ちゃんは嬉しそうに笑ったあと、急に真面目な顔になる。

「ねえ」

「ん?」

「“優”って字、入れたいなって思ったの」

「どうして?」

唯ちゃんは少し考えてから言った。

「優しい人に育ってほしいから」

その声は、とても静かだった。

「誰かが泣いてたら、“大丈夫?”って言える子」

「うん」

「自分のことも、ちゃんと大事にできる子」

僕はその言葉を聞きながら、唯ちゃんの横顔を見る。

たくさん傷ついてきた人の言葉だった。

だからこそ、優しかった。

僕はそっと唯ちゃんの髪を撫でる。

「絶対、優しい子になるよ」

「なんで?」

「お母さんが優しいから」

唯ちゃんは、また照れた顔になる。

「最近それ多い」

「本当のことだから」

すると唯ちゃんは笑いながら、僕の胸に顔を埋めた。

「……好き」

小さな声。

でも、その一言がたまらなく愛しかった。

僕は唯ちゃんを抱き寄せる。

お腹の中の小さな命も、一緒に包み込むみたいに。

その時。

ぽこんっ。

また赤ちゃんが動いた。

唯ちゃんが嬉しそうに笑う。

「優月も聞いてる」

「もう名前気に入ってるのかも」

「ふふっ」

静かな夜。

月明かりの中で、僕たちは何度もその名前を呼んだ。

「優月」

まだ会えていない、小さな命。

でもその名前には、

二人の願いと、愛が、優しく詰まっていた。

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