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名前を考える

まだ顔も見えていない、小さな命。

でもその鼓動は、確かに僕たちを未来へ連れていっていた。

雨はいつの間にか止んでいた。

窓の外には、雲の隙間から月が見えている。

唯ちゃんは眠そうに目を細めながら、お腹を撫でていた。

「ねえ」

「ん?」

「名前、少し考えてみる?」

僕は笑う。

「早くない?」

「でも楽しいじゃん」

テーブルの上にメモ帳を広げて、二人で名前を考え始める。

「優しい子になってほしいから、“優”とか?」

「いいね」

「でも、“うさぎ”っぽい名前も可愛い」

「どんな基準?」

唯ちゃんは真剣な顔で言う。

「大事だよ」

僕は吹き出した。

そんなふうに笑い合っている時間が、たまらなく愛しかった。

しばらくして。

唯ちゃんが急に静かになる。

「どうした?」

唯ちゃんは少し迷ってから、小さく呟いた。

「……怖い時もある」

その声は、今にも消えそうだった。

僕は黙って続きを待つ。

「ちゃんと産めるかな、とか」

「うん」

「この子を守れるかな、とか」

唯ちゃんは俯く。

「幸せすぎると、時々怖くなるの」

その気持ちが分かる気がした。

大切なものが増えるほど、人は臆病になる。

失いたくないから。

僕は静かに唯ちゃんの手を握る。

「大丈夫」

唯ちゃんは弱く笑う。

「根拠ないじゃん」

「うん。でも、一人じゃない」

部屋の灯りが、優しく二人を照らしていた。

「怖い日は、一緒に怖がろう」

唯ちゃんの目に、涙が滲む。

「嬉しい日は、一緒に笑おう」

僕はお腹へそっと触れる。

「この子にも、“大丈夫だよ”っていっぱい伝えよう」

唯ちゃんは泣きながら笑った。

「……うん」

その返事を聞いた瞬間。

胸の奥に、静かな覚悟が生まれていた。

父親になること。

家族を守ること。

きっと簡単じゃない。

でも僕は、逃げたくなかった。

唯ちゃんと、この子と。

これから先の人生を、一緒に歩いていきたかった。

夜更け。

唯ちゃんは僕の肩にもたれたまま、うとうとし始める。

僕はその寝顔を見つめながら、そっと髪を撫でた。

そして心の中で、小さく呟く。

――生まれてきてくれて、ありがとう。

まだ会っていない、小さな命へ向けて。

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