新婚旅行
結婚式から数日後。
僕たちは、新婚旅行で北海道へ来ていた。
唯ちゃんがずっと行きたがっていた場所。
「雪景色の中で、絵本みたいな景色見たい」
そう言っていたからだ。
空港を出た瞬間、冷たい風が頬に触れる。
「寒っ!」
唯ちゃんは僕の腕にしがみつきながら笑った。
白い息。
遠くまで広がる空。
ゆっくり降る雪。
どこを見ても、静かで綺麗だった。
小さな温泉旅館へ向かう途中。
唯ちゃんは窓の外を見ながら、子どもみたいにはしゃいでいる。
「見て!きつね!」
「ほんとだ」
「あと雪だるま!」
「唯ちゃん、ずっとテンション高いね」
「だって新婚旅行だよ!?」
その言葉に、僕は思わず笑った。
旅館は、木の香りがする落ち着いた場所だった。
部屋には、雪景色が見える大きな窓。
テーブルには、手作りのうさぎのお菓子まで置いてある。
唯ちゃんは目を輝かせた。
「かわいい……!」
温泉へ入ったあと。
浴衣姿の唯ちゃんは、頬を赤くしながら部屋へ戻ってくる。
「温泉気持ちよかったぁ……」
髪を少し濡らしたまま、僕の隣へ座る。
窓の外では、静かに雪が降っていた。
夕食には、海鮮料理や熱々の鍋が並ぶ。
唯ちゃんはカニを食べながら、本気で感動していた。
「北海道すごい……」
「幸せそうだね」
「幸せだよ」
そう言って笑う顔が、本当に柔らかい。
夜。
布団に並んで寝転びながら、僕たちは静かな時間を過ごしていた。
旅館の暖房の音。
遠くで聞こえる風。
唯ちゃんは僕の肩に頭を乗せながら、小さく呟く。
「ねえ」
「ん?」
「夫婦なんだね、私たち」
「うん」
「まだちょっと信じられない」
僕は笑いながら、唯ちゃんの手を握る。
その左手には、結婚指輪が光っていた。
唯ちゃんは指輪を見つめながら言う。
「昔の私、“愛される未来”なんて想像できなかった」
雪明かりが、部屋を淡く照らしている。
「でも今は、“帰る場所がある”って思える」
その言葉が、静かに胸へ染み込む。
僕は唯ちゃんの髪を優しく撫でた。
「俺もだよ」
唯ちゃんは少し笑って、目を閉じる。
「ねえ」
「ん?」
「これから先、おじいちゃんとおばあちゃんになってもさ」
「うん」
「たまにケンカして、仲直りして、美味しいもの食べようね」
僕は笑う。
「いいね」
唯ちゃんは眠そうな声で続ける。
「あと……」
「ん?」
「ずっと、“いってらっしゃい”って言う」
窓の外では、雪が静かに降り続けていた。
まるで、二人の新しい人生を、優しく包み込むみたいに。




