結婚式
秋晴れの日。
僕たちは、小さな結婚式を挙げた。
大きく豪華な式ではなかった。
でも――
僕たちらしい、優しい式だった。
式場の入口には、唯ちゃんが描いたうさぎのイラスト。
ウェルカムボードには、柔らかい文字でこう書かれていた。
“いってらっしゃい
しあわせな未来へ”
それを見た瞬間、僕は少し泣きそうになった。
控室。
唯ちゃんは純白のドレス姿で、鏡の前に座っていた。
レースのベール。
小さなパールの髪飾り。
胸元には、うさぎの小さなブローチ。
僕が入ると、唯ちゃんは少し照れながら振り向く。
「……変じゃない?」
僕はしばらく言葉が出なかった。
「めちゃくちゃ綺麗」
そう言うと、唯ちゃんは恥ずかしそうに笑う。
「そんな真顔で言われると照れる」
でも、その目は少し潤んでいた。
「なんか、不思議だね」
「うん」
「昔の私、結婚式とか、自分には関係ないって思ってた」
僕は静かに唯ちゃんの手を握る。
「今は?」
唯ちゃんは、少し泣きそうに笑った。
「今は、夢みたい」
チャペルには、優しい光が差し込んでいた。
友人たち。
大学の先生。
学校の同僚。
みんなが温かい顔で、僕たちを見守っている。
ゆっくりと、唯ちゃんがバージンロードを歩いてくる。
その姿を見た瞬間。
初めて出会った夜から、今までの日々が頭をよぎった。
ネオン街。
カラオケ。
雨のケンカ。
川沿いの約束。
泣きながら笑った夜。
全部が、この瞬間へ続いていた。
誓いの言葉。
僕は震える声で言う。
「どんな時も、あなたの味方でいます」
唯ちゃんも涙を浮かべながら答える。
「あなたが疲れて帰ってきた時、“おかえり”って言える場所でいます」
参列席から、すすり泣く声が聞こえた。
指輪交換の時。
唯ちゃんは泣き笑いしながら言う。
「やばい、手震える」
「俺も」
二人で笑ってしまう。
その空気が、なんだか僕たちらしかった。
式の最後。
退場前に、司会者が言った。
「それでは最後に、新婦から新郎へ、一言あります」
唯ちゃんは少し驚いた顔をしてから、僕を見る。
そして、照れながら笑った。
「……いってらっしゃい」
会場が、優しい笑いに包まれる。
でも僕は、その言葉を聞いた瞬間。
涙が止まらなくなった。
あの日。
何気なく聞いたその言葉が、
僕の人生を変えた。
唯ちゃんは泣きながら笑っている。
僕も笑いながら涙を拭く。
秋の光の中。
僕たちは夫婦になった。
傷ついた過去も、遠回りした日々も、
全部抱きしめながら。
これから先も、二人で同じ未来を歩いていくために。




