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つきよのうさぎ  作者:
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23/302

夏。

僕の通信教育は、想像以上に大変だった。

仕事を終えて帰宅する頃には、もう夜。

そこからレポートを書き、オンライン授業を受け、教育実習の準備も進める。

眠気で文字が霞む日もあった。

「……きつい」

机に突っ伏しながら呟くと、隣で絵を描いていた唯ちゃんが顔を上げる。

「休憩する?」

「いや、もう少しやる」

そう言いながらも、正直、心は折れかけていた。

周りの学生は若い人も多い。

覚えるスピードも違う。

“今さら挑戦して意味あるのかな”

そんな不安が、時々頭をよぎった。

その夜。

レポートを書き終えた頃には、もう深夜二時を回っていた。

僕はベランダへ出て、夜風を吸い込む。

空には、ぼんやり月が浮かんでいた。

しばらくすると、唯ちゃんも隣へ来る。

うさぎ柄のパジャマ姿で、眠そうに目をこすっている。

「まだ起きてたの?」

「あなた待ってた」

その一言だけで、疲れが少し消える。

唯ちゃんは僕の隣に並び、空を見上げた。

「頑張ってるね」

「……ちゃんと進めてるのかな、俺」

珍しく弱音が出た。

唯ちゃんは少し黙ってから、小さく笑う。

「ねえ」

「ん?」

「絵本ってさ、一ページずつしか進まないんだよ」

僕は唯ちゃんを見る。

「いきなり最後のページには行けないの」

夜風が優しく吹く。

「でも、一ページずつ描いてたら、ちゃんと物語になる」

その言葉は、不思議なくらい胸に染みた。

唯ちゃんは僕の肩に頭を乗せながら続ける。

「あなたも今、“先生になる物語”の途中なんだよ」

僕は思わず笑う。

「唯ちゃん、たまにすごいこと言うよね」

「たまに?」

「いつもかも」

唯ちゃんは照れながら、僕の腕を軽く叩いた。

そして小さな声で言う。

「私ね、楽しみなんだ」

「何が?」

「あなたが先生になる日」

その瞳は、まっすぐだった。

「きっと、泣いちゃうと思う」

「早いよ」

「でも絶対泣く」

僕は笑いながら空を見上げる。

昔の僕なら、こんな未来、想像もできなかった。

誰かと支え合って、

未来の話をして、

“頑張りたい”と思える人生。

全部、唯ちゃんと出会ってから始まった。

すると唯ちゃんが突然、思い出したように言う。

「あ、そうだ」

「ん?」

「今度、大学で絵本の読み聞かせイベントあるの」

「いいじゃん」

「子どもたち来るんだけど……」

唯ちゃんは少し不安そうに笑う。

「ちゃんと笑ってくれるかな」

僕は迷わず答える。

「絶対、唯ちゃんのこと好きになるよ」

その瞬間。

唯ちゃんは、少し泣きそうな顔で笑った。

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