夜
夜。
子どもたちが寝たあと。
静かになったリビングで、私はそっとお茶を飲んでいた。
今日のあなたの顔を、何度も思い出していた。
朝。
「いってきます」って笑ってたけど。
やっぱり、少し無理してる顔だった。
たぶん。
昨日の失敗を、まだ引きずってる。
でも。
それでもちゃんと仕事へ向かうあなたを見て。
私は、すごいなって思ってた。
昔からそう。
あなたは、ちゃんと責任を感じる人だ。
人のことを考えて。
頑張りすぎるくらい頑張って。
だからこそ、落ち込む時は深く落ち込む。
でも。
家では、もっと弱音を吐いていいのにって思う。
朝の玄関。
結愛が、一生懸命作った折り紙を渡していた。
“ぱぱ だいじょうぶ!”
ぐちゃぐちゃの字。
でも。
あの子なりに、本気で励ましてた。
あなたが笑った時。
結愛、すごく安心した顔してたなぁ。
優月もそう。
あの子、最近少し大人びたけど。
今日はずっと、あなたのこと気にしてた。
「パパ、大丈夫かな」って。
子どもたちって、本当によく見てる。
夜。
あなたが帰ってきた瞬間。
私は、ちょっとホッとした。
玄関を開けた時の顔が。
昨日より少し柔らかかったから。
結愛が飛びついて。
優月が笑って。
あなたも笑って。
その光景を見てるだけで。
なんだか胸があたたかくなった。
夕ごはんのあと。
結愛が言った。
「きょうも、がんばれてえらい!」
私は思わず笑った。
でも。
あの言葉、すごく大事だと思った。
大人になると。
“頑張っただけ”じゃ褒められない。
結果とか。
成功とか。
ちゃんと出来たかとか。
そういうものばかり増えていく。
でも本当は。
毎日ちゃんと起きて。
怖くても仕事へ行って。
疲れて帰ってくるだけでも。
十分、頑張ってるんだと思う。
あなたは、きっと自分に厳しすぎる。
だから私は。
せめて家では。
「大丈夫だよ」って言える人でいたい。
夜更け。
私は、机の上に置いてある折り紙を見る。
“ぱぱ だいじょうぶ!”
少し曲がった文字。
その横には、優月のメモ。
“失敗しても、パパはパパだよ”
私は、小さく笑った。
この家、優しいなぁって思う。
たぶん。
あなたが優しいから。
子どもたちも、こうなったんだろうな。
寝室へ行くと。
あなたは、もう少し眠そうだった。
私は隣に座る。
すると。
あなたが小さく言った。
「今日、ちょっと救われた」
その声が、少し弱くて。
でも。
ちゃんと前を向こうとしてる声だった。
私は、そっと笑う。
「よかった」
それから。
あなたの肩にもたれた。
外は寒い冬の夜。
でも。
あなたの隣は、ちゃんとあたたかかった。
私は思う。
うまくいかない日も。
失敗する日も。
きっとこれから何度もある。
でも。
帰ってきて。
「おかえり」って言い合えるなら。
それだけで。
また頑張れる気がする。
山本家の灯りは。
今日も静かに、私たちを包んでいた。




