夫婦って、こういう会話なのかもしれない。
次の日の朝。
私は、少し早く目が覚めた。
カーテンの隙間から入る、冬のやわらかい光。
隣を見る。
あなたは、まだ眠っていた。
昨日より少し穏やかな顔。
それを見て、私は少し安心する。
たぶん。
まだ完全には元気じゃない。
でも。
ちゃんと前を向こうとしてる。
それが分かったから。
私は静かにベッドを出る。
キッチンへ向かう。
お弁当を作る音。
お味噌汁の湯気。
朝の静かな時間。
昔は。
こういう毎日を、“普通”だと思っていた。
でも今は違う。
みんなが笑って起きてきて。
「おはよう」って言えて。
それだけで、十分幸せだと思う。
しばらくして。
後ろから、小さな足音。
振り返る。
結愛。
まだ半分寝てる顔。
髪もふわふわ。
でも。
開口一番。
「ぱぱ、げんき?」
やっぱり気にしてる。
私は笑う。
「うん。昨日より元気だと思うよ」
すると。
結愛は、安心したように頷いた。
それから。
小さい声で言う。
「よかったぁ……」
その顔が、すごく優しかった。
少しして。
あなたも起きてくる。
「おはよう」
昨日より、ちゃんと笑えてた。
私は、その笑顔を見るだけで嬉しくなる。
朝ごはんの時間。
優月が、何気なく学校の話をして。
結愛が、パンにジャム塗りすぎて騒いで。
あなたが苦笑いして。
いつもの山本家だった。
でも。
“いつも通り”って。
本当は、すごく大切なんだと思う。
その時。
あなたが、ふと私を見る。
「昨日、ありがとう」
小さい声。
でも。
ちゃんと届いた。
私は少し笑う。
「どういたしまして」
それだけ。
でも。
夫婦って、こういう会話なのかもしれない。
派手じゃなくていい。
ちゃんと隣にいること。
それが、一番大きい。
玄関。
今日も仕事へ向かうあなた。
昨日より背筋が伸びてる。
でも。
私は知ってる。
まだ少し、不安も残ってること。
だから。
靴を履くあなたに、そっと言う。
「今日も、無理しすぎないでね」
あなたは少し驚いた顔をして。
それから、優しく笑った。
「うん」
その返事が、なんだか嬉しかった。
ドアが閉まる。
静かな玄関。
でも。
今日は昨日みたいな心配は少なかった。
結愛が、私の服を引っ張る。
「ぱぱ、がんばれるかな」
私はしゃがんで、目線を合わせる。
そして笑った。
「大丈夫。パパ、強いから」
すると。
結愛は、胸を張る。
「ゆあのおうえんあるし!」
私は吹き出した。
本当に、この子は。
人を元気にする天才だ。
窓の外。
冬の空は冷たい。
でも。
山本家の中には、ちゃんとあたたかさがあった。
私は思う。
これからもきっと。
うまくいかない日がある。
泣きたくなる日もある。
でも。
みんなで「大丈夫」って言い合いながら。
少しずつ進んでいけたらいい。
そんなことを考えながら。
私は、冷めないうちにお味噌汁をよそった。




