“失敗しても、パパはパパだよ”
次の日の朝。
僕は、少し早く目が覚めた。
昨日より、ほんの少しだけ気持ちが軽い。
リビングへ行くと。
唯ちゃんが朝ごはんを作っていた。
トーストの香り。
卵焼きの音。
いつもの朝。
唯ちゃんは僕を見ると、ふわっと笑った。
「おはよう」
その声だけで、少し安心する。
僕も笑い返す。
「おはよう」
しばらくして。
どたどたどたっ。
結愛、起床。
髪、大爆発。
まだ半分寝てる。
でも。
僕を見るなり、ぱっと顔が明るくなる。
「ぱぱ!げんきになった!?」
早い確認。
僕は笑う。
「うん。ちょっと元気になった」
すると。
結愛、ガッツポーズ。
「やったぁ!」
完全に自分の手柄。
その後。
優月も起きてくる。
眠そうな顔で席に座りながら、僕を見る。
「パパ、今日もお仕事?」
「うん」
すると。
優月は少し考えてから言った。
「じゃあ、“いってらっしゃいパワー”しなきゃね」
結愛、即参加。
「する!!」
なんだそれ。
朝ごはんのあと。
玄関。
僕が靴を履いていると。
結愛が、昨日の折り紙を持ってくる。
少しシワシワ。
でも。
大事そうに両手で持ってる。
「これ、もってく?」
僕は受け取る。
“ぱぱ だいじょうぶ!”
ぐちゃぐちゃの文字。
でも。
たぶん、世界で一番効く応援だった。
僕が笑うと。
結愛も笑った。
その時。
優月が、小さなメモを差し出す。
「これも」
見る。
そこには。
“失敗しても、パパはパパだよ”
短い言葉。
でも。
胸が熱くなる。
僕は、少し声が詰まりながら笑った。
「ありがとう」
唯ちゃんは、そんな僕を見ながら優しく言う。
「いってらっしゃい」
その声が、昨日よりもっとあたたかく聞こえた。
仕事へ向かう道。
空気はまだ冷たい。
でも。
昨日とは違った。
カバンの中には、結愛の折り紙。
ポケットには、優月のメモ。
そして。
背中には、家族の言葉。
職場へ着く。
昨日ミスした資料を見ながら、深呼吸する。
怖さはまだある。
落ち込みも、完全には消えてない。
でも。
“また頑張ろう”って思えた。
昼休み。
僕は、そっと折り紙を取り出す。
“ぱぱ だいじょうぶ!”
思わず笑ってしまう。
隣の同僚に見られた。
少し恥ずかしい。
でも。
なんだか誇らしかった。
夜。
家へ帰る。
ドアを開けた瞬間――
結愛。
「ぱぱー!!」
今日も全力。
優月も笑顔で「おかえり」。
唯ちゃんは、キッチンから顔を出して笑う。
「お疲れさま」
その瞬間。
僕は思った。
完璧じゃなくてもいい。
失敗してもいい。
この家には。
ちゃんと“帰ってこれる場所”があるんだって。
夕ごはんのあと。
結愛が突然言った。
「ぱぱ!」
「ん?」
結愛、胸を張る。
「きょうも、がんばれてえらい!」
数秒。
静寂。
優月、吹き出す。
唯ちゃんも笑ってる。
僕も、笑った。
でも。
少しだけ、泣きそうだった。
冬の夜。
山本家のリビングには。
今日も優しい笑い声が響いていた。




