↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つきよのうさぎ  作者:
PR
220/302

失敗

冬のある日。


空はどんより曇っていた。


冷たい風。


駅から家までの道が、やけに長く感じる。


その日。


僕は、仕事で大きなミスをした。


確認不足。


焦り。


自分でも分かるくらい落ち込んでいた。


家の前に立っても。


すぐにドアを開けられなかった。


「はぁ……」


小さく息を吐く。


でも。


中から聞こえてくる声。


結愛の笑い声。


優月の声。


唯ちゃんの「こらこら〜」って声。


その音を聞くだけで。


少しだけ肩の力が抜けた。


ガチャ。


ドアを開ける。


すると。


結愛がダッシュしてくる。


「ぱぱー!!」


勢いそのまま抱きつく。


いつもなら笑える。


でも今日は、少しうまく笑えなかった。


唯ちゃんが気づく。


「……おかえり」


その声が、少し優しかった。


僕は、なんとか笑おうとする。


「ただいま」


でも。


たぶん隠せてなかった。


夕ごはん。


いつもより静かだった。


僕がぼーっとしていると。


結愛が、じーっと顔を見てくる。


そして。


小さく聞いた。


「ぱぱ、げんきない?」


子どもって。


本当にすぐ気づく。


僕は苦笑いする。


「ちょっとね」


すると。


結愛は、少し考えて――


自分のプリンを半分くれた。


「げんきでるよ」


その瞬間。


優月も静かに言う。


「学校でもね、失敗する時あるよ」


咲良ちゃんも頷く。


「うん。わたしもよくある」


唯ちゃんは、温かいお茶を置きながら笑った。


「失敗しない人なんていないよ」


その声が、ゆっくり胸に入ってくる。


でも。


僕は小さく言った。


「でも、迷惑かけちゃったからさ……」


すると。


少し静かになったあと。


優月がぽつりと言った。


「でもパパ、いつも頑張ってるじゃん」


結愛も、すぐ頷く。


「ぱぱ、いっぱいがんばってる!」


その言葉が、まっすぐだった。


唯ちゃんは、僕を見ながら静かに笑う。


「家では、ちゃんと休んでいいんだよ」


その瞬間。


なんだか胸がいっぱいになる。


頑張らなきゃ。


ちゃんとしなきゃ。


そう思い続けてた心が。


少しだけ緩んだ気がした。


そのあと。


結愛が突然立ち上がる。


「まってて!」


どたどた走っていく。


数分後。


持ってきたのは――


折り紙。


ぐちゃぐちゃ。


でも。


真ん中に大きく書いてある。


“ぱぱ だいじょうぶ!”


優月、吹き出す。


唯ちゃんも笑ってる。


でも。


僕は、ちょっと泣きそうだった。


結愛は、胸を張る。


「ゆあの、おうえんまほう!」


その隣で。


優月が静かに言った。


「パパ、わたしたちパパのこと好きだからね」


その言葉が。


今日一番、胸に刺さった。


夜。


みんなが寝たあと。


僕は、リビングで一人、お茶を飲んでいた。


すると。


唯ちゃんが隣に座る。


しばらく無言。


でも。


その静けさが心地よかった。


唯ちゃんが、小さく笑う。


「今日、結愛ずっと“ぱぱげんきかな”って言ってたよ」


僕は、少し笑う。


「そっか」


唯ちゃんは、僕の肩にそっと寄りかかった。


「大丈夫」


その一言だけで。


少し救われる。


失敗した日だった。


うまくいかなかった日だった。


でも。


帰る場所がある。


笑ってくれる人がいる。


それだけで。


また頑張れる気がした。


窓の外。


冬の夜空には、小さな星。


山本家の灯りは。


今日も静かに、僕を迎えてくれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。