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つきよのうさぎ  作者:
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218/302

絵本 うさぎ2

絵本発売から数週間。


『まいごのしろうさぎ』は――


少しずつ話題になっていた。


本屋さんのおすすめコーナー。


SNSの感想。


「泣いた」


「あたたかい」


「子どもと一緒に読んだ」


そんな言葉が増えていく。


でも。


唯ちゃん本人は、あまり実感がない。


むしろ。


スーパーで大根選んでる。


普通。


その日も。


山本家のリビング。


唯ちゃんは、新しい絵本のラフを描いていた。


タイトル候補。


『ぷりんうさぎのぼうけん』


結愛、超真剣。


「ぷりんは、せかいをすくう」


壮大。


優月、笑いすぎてペン持てない。


咲良ちゃんも涙目。


その時。


出版社から電話。


唯ちゃん、出る。


しばらく話して――


固まる。


僕、嫌な予感と良い予感が半分。


唯ちゃんが、ゆっくり振り返る。


「……サイン会、やるって」


数秒静止。


結愛。


「サメかい?」


違う。


優月、大興奮。


「サイン会!?すごい!!」


唯ちゃん本人だけ、まだ信じられてない。


そして迎えた当日。


本屋さん。


特設コーナー。


ポスター。


『まいごのしろうさぎ サイン会』


唯ちゃん、緊張で手が冷たい。


「むりかも……」


僕、笑う。


「大丈夫」


優月も言う。


「絶対大丈夫」


結愛なんて。


「ママは、うしゃぎパワーある!」


何その力。


開始時間。


少しずつ人が並び始める。


小さな子ども。


親子。


学生さん。


涙ぐみながら感想を話してくれる人までいた。


あるお母さんが言った。


「この絵本、子どもが毎晩読んでって持ってくるんです」


唯ちゃん、目を丸くする。


そして。


優しく笑った。


「ありがとうございます」


その笑顔が、本当に嬉しそうだった。


小さな男の子なんて。


うさぎの絵を描いて持ってきた。


結愛、横で感動してる。


「ともだちだ……」


違うけど近い。


そのあと。


優月が、静かに唯ちゃんを見る。


サインを書いて。


笑って。


「ありがとう」って何度も言う唯ちゃん。


その姿が、すごく綺麗だった。


優月は、小さく呟く。


「ママ、かっこいいなぁ」


咲良ちゃんも頷く。


「うん」


その瞬間。


唯ちゃんと目が合う。


唯ちゃん、少し照れながら笑った。


でも。


その笑顔は、前より少し自信があるように見えた。


帰り道。


結愛は、ずっと自慢してる。


「ママ、ほんやさんにいた!」


事実だけど面白い。


夜。


リビング。


サイン会でもらった手紙を、みんなで読む。


「元気が出ました」


「家族に会いたくなりました」


「また読みます」


優しい言葉がいっぱい。


唯ちゃんは、静かにその手紙を見ていた。


それから。


ぽつりと言う。


「描いてよかったなぁ……」


その声が、少し震えていた。


僕は、そっと隣に座る。


結愛は、唯ちゃんにぴったりくっついてる。


優月も笑ってる。


咲良ちゃんも優しい顔。


その光景を見て。


僕は思う。


唯ちゃんの絵本は。


誰かを幸せにしてる。


でも。


一番幸せをもらってるのは――


たぶん、この家なんだろうなって。


机の上には。


次の絵本のラフ。


小さなプリンうさぎが、楽しそうに笑っていた。


山本家の物語は。


まだまだ続いていく。


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