絵本 うさぎ
秋の終わり頃。
ある日の午後。
山本家のリビングで――
唯ちゃんが、ものすごく静かだった。
スマホを見たまま固まってる。
僕が声をかける。
「どうしたの?」
唯ちゃんは、ゆっくり僕を見る。
そして。
少し震えた声で言った。
「……絵本、出版したいって連絡きた」
数秒。
空気が止まる。
僕。
「えっ?」
優月。
「えぇぇ!?」
結愛。
「しゅっぱんってなに!?」
一人だけ理解してない。
でも。
とにかく大ニュースだった。
出版社の人が。
SNSに載せた『まいごのしろうさぎ』を見てくれていたらしい。
そして。
「ぜひ本にしたいです」
という連絡。
唯ちゃん、まだ信じられない顔。
「ほんとかな……」
優月なんて、もう大興奮。
「ママすごい!!」
結愛も便乗。
「ママ、ゆうめい!?」
急にスター扱い。
数週間後。
出版社との打ち合わせ。
唯ちゃん、めちゃくちゃ緊張。
でも。
編集さんが優しく言ってくれた。
「この絵本、すごくあたたかいです」
その言葉に。
唯ちゃんの目が、少し潤んでいた。
たぶん。
“好き”を認めてもらえるって。
本当に嬉しいことなんだ。
制作開始。
優月も手伝う。
色塗りを一緒に考えたり。
背景の参考を探したり。
咲良ちゃんまで参加。
「このページ、夕焼けっぽい!」
みんなで作る絵本になっていった。
その横で。
結愛。
完全に宣伝担当。
ぬいぐるみ相手に読み聞かせしてる。
「これはね、うしゃぎしゃんがね!」
読者層広い。
発売日。
本屋さんへ行く。
家族みんなで。
ひまりちゃんと咲良ちゃん一家も一緒。
児童書コーナー。
そこに――
並んでいた。
『まいごのしろうさぎ』
ちゃんと本になってる。
表紙。
帯。
タイトル。
全部、本物。
唯ちゃん、立ち止まる。
静かに見つめてる。
優月なんて、目がキラキラ。
「ママの本だ……」
結愛は、本を抱きしめる。
「うしゃぎしゃん!!」
嬉しそう。
その時。
近くにいた小さな女の子が、本を手に取る。
ページをめくる。
そして。
お母さんに言った。
「これ、よみたい!」
その瞬間。
唯ちゃんの目に、涙が浮かぶ。
僕は、そっと隣に立つ。
唯ちゃんが、小さく笑った。
「なんか夢みたい」
僕は答える。
「唯ちゃんが頑張ったからだよ」
でも。
唯ちゃんは首を振る。
「みんなのおかげ」
その言葉が、すごく唯ちゃんらしかった。
夜。
山本家。
テーブルの上には、発売された絵本。
結愛は、何回も読んでる。
優月は、嬉しそうに表紙を撫でている。
咲良ちゃんも、笑顔。
そして。
唯ちゃんは、少し照れながらその光景を見ていた。
その時。
結愛が言う。
「ママ、つぎは“ぷりんうしゃぎ”かこう!」
唯ちゃん、吹き出す。
優月も笑う。
リビングが笑い声でいっぱいになる。
僕は思う。
唯ちゃんの絵本って。
ただの物語じゃない。
この家の優しさ。
笑顔。
あたたかさ。
それ全部が入ってるんだって。
窓の外。
秋の夜空には、小さな星。
山本家の灯りは。
今日も、誰かを優しく照らしていた。




