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つきよのうさぎ  作者:
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唯の絵本

秋の風が、少しずつ涼しくなってきた頃。


山本家の夜は、いつもより静かだった。


結愛は、ひまりちゃんの家にお泊まり。


優月は、自分の部屋で絵を描いている。


僕がリビングへ行くと――


唯ちゃんが、机に向かっていた。


久しぶりだった。


スケッチブック。


色鉛筆。


温かいミルクティー。


そして。


真剣な横顔。


僕は少し驚く。


「……絵本?」


唯ちゃんは、少し照れながら笑った。


「うん。なんか急に描きたくなって」


その声が、少し懐かしかった。


昔。


唯ちゃんは、よく絵本を描いていた。


優しい動物たちの話。


小さな冒険。


誰かを思いやる物語。


結愛が生まれてからは忙しくなって。


描く時間は減っていた。


でも。


今日は違った。


机の上には――


うさぎの絵。


丸くて、小さくて。


ちょっと困った顔をした白いうさぎ。


僕が聞く。


「どんな話?」


唯ちゃんは、少し考えてから言った。


「“迷子のうさぎ”の話」


それから、小さく笑う。


「でも、最後はちゃんと帰れるの」


その言葉が、唯ちゃんらしかった。


しばらくして。


優月が飲み物を取りに降りてくる。


そして。


机を見る。


目が丸くなる。


「わぁ……!」


唯ちゃん、少し照れる。


「久しぶりに描いてる」


優月は、絵本をそっと覗き込む。


そこには。


森の中で迷子になった、小さなうさぎ。


でも。


周りには優しい動物たち。


ふくろう。


りす。


くま。


みんな少しずつ助けてくれる。


優月が小さく言った。


「ママの絵、やっぱり好き」


その言葉に。


唯ちゃんの手が少し止まる。


でも。


嬉しそうに笑った。


その時。


僕は気づいた。


唯ちゃん自身も。


“描くこと”が好きなんだって。


ずっと。


変わらず。


夜が深くなる。


リビングには、鉛筆の音だけ。


カリカリ。


静かな時間。


でも。


その空気が、とてもあたたかかった。


しばらくして。


唯ちゃんが、小さく呟く。


「なんかさ」


「うん?」


「最近、毎日が幸せだから描きたくなったのかも」


僕は少し笑う。


「うさぎさんも幸せになる?」


唯ちゃんは、優しく頷いた。


「うん。いっぱい」


その笑顔が、すごく綺麗だった。


翌朝。


結愛が帰ってくる。


そして。


机の上の絵本を見る。


数秒固まる。


「うさぎしゃん!!」


即抱える。


唯ちゃん、笑う。


結愛は、ページをめくりながら真剣。


でも。


途中で言う。


「このうさぎ、ママににてる」


唯ちゃん、吹き出す。


優月も笑ってる。


僕も思った。


たしかに少し似ていた。


優しくて。


少し頑張り屋で。


でも。


ちゃんと誰かを幸せにするうさぎ。


その夜。


唯ちゃんは、また机に向かった。


続きを描くために。


窓の外では、秋の虫の声。


山本家の灯りは。


今日も優しく、あたたかく灯っていた。


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