「みんなで作ってるんだよ、山本家」
ある土曜日。
珍しく――
家が静かだった。
結愛は、ひまりちゃんの家へお泊まり。
優月は、咲良ちゃんと絵画展へ。
つまり。
今日は。
唯ちゃんと僕、二人だけ。
朝。
リビングでコーヒーを飲みながら、唯ちゃんがぽつりと言った。
「……なんか、不思議だね」
僕も笑う。
「静かすぎる」
いつもなら。
結愛の「みてー!!」が飛び交ってる時間。
でも今日は、時計の音が聞こえるくらい穏やかだった。
すると。
唯ちゃんが少し悪そうに笑う。
「デート、する?」
数秒後。
僕、即答。
「します」
久しぶりの、二人だけの外出。
駅前。
ショッピングモール。
映画館。
カフェ。
どこも、昔二人でよく歩いた場所だった。
でも。
今は少し違う。
“家族”になった二人が歩く景色だった。
まずは映画。
恋愛映画を見る予定だったのに――
唯ちゃん、ポップコーンを落とす。
しかも盛大に。
僕、吹き出す。
唯ちゃん、顔真っ赤。
「最悪……」
でも。
そのあと二人で笑いが止まらなくなる。
昔から。
こういう小さい失敗で、二人はよく笑っていた。
映画のあと。
カフェへ。
窓際の席。
秋が少し混ざり始めた風。
唯ちゃんが、ミルクティーを飲みながら言った。
「なんかさ」
「うん?」
「最近、“夫婦”って感じだよね」
僕は笑う。
「今さら?」
唯ちゃんも笑った。
でも。
その笑顔が、少し柔らかかった。
しばらくして。
唯ちゃんが、静かに言った。
「子どもたち、楽しそうでよかったね」
僕も頷く。
優月。
結愛。
ひまりちゃん。
咲良ちゃん。
みんなが笑ってる。
その毎日が、本当に愛おしかった。
僕が言う。
「唯ちゃんのおかげだよ」
すると。
唯ちゃん、すぐ否定する。
「違うよ」
それから。
少し照れながら笑った。
「みんなで作ってるんだよ、山本家」
その言葉が、すごく唯ちゃんらしかった。
夕方。
二人で川沿いを歩く。
空がオレンジ色。
風が気持ちいい。
昔の話になる。
出会った頃。
初デート。
ケンカした日。
笑った日。
全部。
ちゃんと今につながってる気がした。
その時。
唯ちゃんが突然立ち止まる。
「ねぇ」
「ん?」
唯ちゃんは、少しだけ僕の顔を見て笑った。
「ありがとう」
その声が、すごく優しかった。
僕は少し照れながら聞く。
「急にどうしたの?」
唯ちゃんは、空を見ながら言った。
「なんか、幸せだなって思って」
秋の風が吹く。
静かな時間。
でも。
その言葉だけで、胸がいっぱいになる。
帰り道。
スーパーへ寄る。
現実感。
でも。
二人で晩ごはんを選ぶ時間さえ、なんだか楽しかった。
唯ちゃん、野菜を見ながら真剣。
僕、横でカゴ持ち。
すると。
唯ちゃんが急に笑う。
「こういうのも、デートっぽいね」
僕も笑う。
「うん。すごく」
夜。
家に帰ると。
静かなリビング。
でも。
どこかあったかい。
唯ちゃんは、ソファに座りながら小さく伸びをした。
「楽しかったぁ」
その顔が、少し恋人時代に戻ったみたいだった。
僕は思う。
特別な場所じゃなくても。
派手なことがなくても。
一緒に笑えるだけで、ちゃんと幸せなんだなって。
窓の外には、静かな夜。
山本家の灯りは。
今日も優しく光っていた。




