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つきよのうさぎ  作者:
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214/302

「みんなで作ってるんだよ、山本家」

ある土曜日。


珍しく――


家が静かだった。


結愛は、ひまりちゃんの家へお泊まり。


優月は、咲良ちゃんと絵画展へ。


つまり。


今日は。


唯ちゃんと僕、二人だけ。


朝。


リビングでコーヒーを飲みながら、唯ちゃんがぽつりと言った。


「……なんか、不思議だね」


僕も笑う。


「静かすぎる」


いつもなら。


結愛の「みてー!!」が飛び交ってる時間。


でも今日は、時計の音が聞こえるくらい穏やかだった。


すると。


唯ちゃんが少し悪そうに笑う。


「デート、する?」


数秒後。


僕、即答。


「します」


久しぶりの、二人だけの外出。


駅前。


ショッピングモール。


映画館。


カフェ。


どこも、昔二人でよく歩いた場所だった。


でも。


今は少し違う。


“家族”になった二人が歩く景色だった。


まずは映画。


恋愛映画を見る予定だったのに――


唯ちゃん、ポップコーンを落とす。


しかも盛大に。


僕、吹き出す。


唯ちゃん、顔真っ赤。


「最悪……」


でも。


そのあと二人で笑いが止まらなくなる。


昔から。


こういう小さい失敗で、二人はよく笑っていた。


映画のあと。


カフェへ。


窓際の席。


秋が少し混ざり始めた風。


唯ちゃんが、ミルクティーを飲みながら言った。


「なんかさ」


「うん?」


「最近、“夫婦”って感じだよね」


僕は笑う。


「今さら?」


唯ちゃんも笑った。


でも。


その笑顔が、少し柔らかかった。


しばらくして。


唯ちゃんが、静かに言った。


「子どもたち、楽しそうでよかったね」


僕も頷く。


優月。


結愛。


ひまりちゃん。


咲良ちゃん。


みんなが笑ってる。


その毎日が、本当に愛おしかった。


僕が言う。


「唯ちゃんのおかげだよ」


すると。


唯ちゃん、すぐ否定する。


「違うよ」


それから。


少し照れながら笑った。


「みんなで作ってるんだよ、山本家」


その言葉が、すごく唯ちゃんらしかった。


夕方。


二人で川沿いを歩く。


空がオレンジ色。


風が気持ちいい。


昔の話になる。


出会った頃。


初デート。


ケンカした日。


笑った日。


全部。


ちゃんと今につながってる気がした。


その時。


唯ちゃんが突然立ち止まる。


「ねぇ」


「ん?」


唯ちゃんは、少しだけ僕の顔を見て笑った。


「ありがとう」


その声が、すごく優しかった。


僕は少し照れながら聞く。


「急にどうしたの?」


唯ちゃんは、空を見ながら言った。


「なんか、幸せだなって思って」


秋の風が吹く。


静かな時間。


でも。


その言葉だけで、胸がいっぱいになる。


帰り道。


スーパーへ寄る。


現実感。


でも。


二人で晩ごはんを選ぶ時間さえ、なんだか楽しかった。


唯ちゃん、野菜を見ながら真剣。


僕、横でカゴ持ち。


すると。


唯ちゃんが急に笑う。


「こういうのも、デートっぽいね」


僕も笑う。


「うん。すごく」


夜。


家に帰ると。


静かなリビング。


でも。


どこかあったかい。


唯ちゃんは、ソファに座りながら小さく伸びをした。


「楽しかったぁ」


その顔が、少し恋人時代に戻ったみたいだった。


僕は思う。


特別な場所じゃなくても。


派手なことがなくても。


一緒に笑えるだけで、ちゃんと幸せなんだなって。


窓の外には、静かな夜。


山本家の灯りは。


今日も優しく光っていた。


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