『かわのたからもの』
夏休み最後の週末。
朝。
山本家のリビング。
結愛が、なぜか麦わら帽子を二個かぶっていた。
意味不明。
でも本人は真剣。
「つりのたつじん」
今日は――
みんなで川釣りへ行く日。
ひまりちゃんと咲良ちゃんも一緒。
結愛とひまりちゃんは、もう完全に冒険モードだった。
川へ到着。
水がキラキラしている。
山の空気。
冷たい風。
川の音。
結愛、目を丸くする。
「すずしい……」
生き返った。
ひまりちゃんもテンションMAX。
「さかな、いるかな!?」
そして。
二人、即川を覗き込む。
落ちそう。
僕と唯ちゃん、即確保。
釣りスタート。
竿を持つ結愛。
でも。
持ち方が完全に勇者。
しゃもじ感覚。
優月、大笑い。
咲良ちゃんも笑いながら教えている。
「もっとこう、ゆっくり!」
結愛、真剣に頷く。
「なるほど……」
数分後。
全員静か。
川の流れる音だけ。
結愛、小声。
「つりって、しずかなたたかいだね」
名言っぽい。
その時。
ひまりちゃんのウキが動く。
「あっ!!」
釣れた。
小さな魚。
ひまりちゃん、大興奮。
「つれたぁぁ!!」
結愛、超拍手。
「すごい!!」
その笑顔が、まるで自分のことみたいに嬉しそうだった。
一方。
結愛。
釣れない。
でも。
真剣。
すると突然。
「きたぁぁぁ!!」
竿が動く。
結愛、大慌て。
「お、お、おもい!!」
みんな集まる。
優月、笑いながらサポート。
そして――
釣れた。
……葉っぱ。
数秒静止。
咲良ちゃん、吹き出す。
ひまりちゃん、笑い転げる。
結愛、真顔。
「みどりのさかな」
新種だった。
昼。
みんなでおにぎりを食べる。
川のそばで食べると、なんでも美味しい。
優月と咲良ちゃんは、並んで座っていた。
その時。
咲良ちゃんが、小さく言う。
「夏休み、終わっちゃうね」
優月も空を見る。
「うん……」
少し寂しそう。
でも。
そのあと優月は笑った。
「でも、いっぱい思い出できた」
咲良ちゃんも笑う。
「うん」
その空気が、とても穏やかだった。
午後。
川遊び開始。
結愛とひまりちゃん、水かけ合戦。
びしょ濡れ。
笑い声。
逃げる。
転ぶ。
また笑う。
夏そのものだった。
その時。
結愛が、川の中で小さな石を見つける。
キラッと光る。
「ほうせき!」
ひまりちゃんも覗き込む。
「ほんとだ!」
二人、大事そうに持つ。
優月は、その姿を静かに見ていた。
子どもって。
小さなものを、本当に宝物みたいに見つけるんだなって思った。
夕方。
帰る時間。
空がオレンジ色。
川がキラキラしてる。
結愛は、今日拾った石を握りながら言った。
「またみんなでこようね」
ひまりちゃんも頷く。
「絶対!」
その約束が、すごく自然だった。
夜。
優月は、スケッチブックを開く。
川。
魚。
葉っぱ。
笑うみんな。
そして。
小さな石を見つめる結愛とひまりちゃん。
タイトルは――
『かわのたからもの』
その絵は。
今までで一番、夏の終わりの匂いがしていた。




