夏の冒険
夏休み終盤。
朝早く。
山本家は、珍しく静かだった。
……と思ったら。
玄関で結愛が騒いでいた。
「ぼうけん!!」
今日は――
みんなで山へ行く日。
自然いっぱいのハイキングコース。
結愛とひまりちゃんは、完全に冒険モード。
しかも。
二人とも小さいリュック背負ってる。
中身。
お菓子。
ほぼ遠足。
優月と咲良ちゃんは、水筒を準備しながら笑っていた。
「絶対途中で疲れるよね」
「うん、でも楽しそう」
その空気が、もうすっかり仲良しだった。
山到着。
空気が違う。
涼しい。
木の匂い。
蝉の声。
川の音。
結愛、目を丸くする。
「もりだ……」
魔法の森認定。
ひまりちゃんも興奮。
「ここ、絶対まほうある!」
すぐファンタジー化。
ハイキングスタート。
最初は元気。
二人とも先頭。
「ゆあぴか、すすめー!」
「ひまりんもー!」
でも。
十分後。
結愛。
「つかれた」
早い。
優月、大爆笑。
でも。
咲良ちゃんが笑いながら言う。
「休みながら行こう」
その言葉が優しくて。
みんな、ゆっくり歩き始めた。
途中。
小さな川を見つける。
水がキラキラ。
結愛とひまりちゃん、即しゃがむ。
「つめた!!」
「きもちいい!!」
その横で。
優月が、小さな花を見つけていた。
白くて小さい花。
咲良ちゃんが覗き込む。
「かわいいね」
優月が笑う。
「ケーキの飾りみたい」
咲良ちゃんも頷く。
「優月ちゃんって、なんでもお菓子に見えるね」
優月、照れ笑い。
でも。
なんだかその会話が自然だった。
しばらく登ると。
少し開けた場所へ出る。
景色が広がる。
青空。
遠くの町。
風。
結愛たち、一瞬静かになる。
それから。
「うわぁぁぁ……」
その声が、小さかった。
僕は思う。
本当に綺麗な景色って。
人を静かにするんだなって。
その時。
結愛が突然、しゃもじを掲げる。
持ってきてた。
「やまのへいわ、まもる!!」
優月、吹き出す。
ひまりちゃんもステッキを掲げる。
「しぜんパワー!!」
観光客のおじさん、笑ってる。
昼ごはん。
みんなでおにぎりを食べる。
山で食べると、なんでこんなに美味しいんだろう。
結愛なんて。
「おにぎり、れべるあっぷしてる」
謎表現。
そのあと。
虫探し。
結愛とひまりちゃん、蝶々追いかけて走る。
転ぶ。
笑う。
また走る。
その姿を。
優月と咲良ちゃんは、並んで見ていた。
咲良ちゃんが、ぽつりと言う。
「こういう夏、好きだなぁ」
優月も、静かに頷く。
「うん。なんか、“ちゃんと夏してる”感じ」
その声が、少し嬉しそうだった。
帰り道。
結愛、完全に電池切れ。
僕の背中でうとうとしている。
でも。
眠る前に、小さく言った。
「やま、たのしかった……」
ひまりちゃんも、隣で眠そうに笑ってる。
夏の夕方。
オレンジ色の光。
少し疲れて。
でも。
心がいっぱいになるような一日だった。
夜。
優月は、今日の絵を描く。
山道。
川。
小さな花。
しゃもじを掲げる結愛。
そして。
並んで景色を見る、自分と咲良ちゃん。
タイトルは――
『なつのぼうけん』
その絵は。
今までで一番、風の音が聞こえそうだった。




