雨の夜から数日後
雨の夜から数日後。
僕は会社帰りに、本屋へ寄っていた。
資格の参考書を探していたはずなのに、
気づけば教育コーナーの前で立ち止まっていた。
小学校教育。
児童心理。
子どもとの向き合い方。
ページをめくるたび、胸の奥が少し熱くなる。
――子どもたちに、安心できる場所を作れる人になりたい。
その気持ちは、いつの間にか本物になっていた。
きっかけは、唯ちゃんだった。
絵本で誰かを救いたいと願う唯ちゃんを見て、
僕も“誰かの未来に残る人”になりたいと思った。
その夜。
唯ちゃんの部屋で、僕は思い切って話した。
「俺、小学校の先生目指そうと思う」
唯ちゃんは持っていたマグカップを止めた。
「……え?」
「ちゃんと勉強して、資格取って」
部屋が静かになる。
唯ちゃんはしばらく僕を見つめていた。
それから、ゆっくり笑う。
「すごい」
「いや、まだ全然だよ」
「違うの」
唯ちゃんは首を横に振る。
「“なりたい”って言えたことがすごいの」
その言葉に、少し救われる。
僕は苦笑いしながら言う。
「でもさ、年齢的にも遅いし、不安もある」
「うん」
「本当に向いてるのかな、とか」
すると唯ちゃんは、少し考えてから言った。
「ねえ」
「ん?」
「あなた、昔の私に何て言ったか覚えてる?」
僕は首を傾げる。
唯ちゃんは笑った。
「“唯ちゃんが誰かの心を動かせる人だって知ってる”って」
胸が熱くなる。
唯ちゃんは、まっすぐ僕を見る。
「今度は私が言う番」
雨上がりの光が、窓に反射していた。
「あなたは、子どもの気持ちちゃんと見つけられる人だと思う」
その言葉に、喉が詰まりそうになる。
唯ちゃんは続ける。
「無理して元気なふりしてる子とか、一人で我慢してる子とか」
そして、少し優しく笑った。
「あなた、自分がそうだったから、きっと気づける」
僕は何も言えなかった。
ただ、胸の奥がじんわり熱かった。
唯ちゃんは立ち上がると、本棚から一冊の絵本を持ってきた。
うさぎが先生になって、迷子の動物たちを迎える話。
最後のページには、こう書かれていた。
“やさしいひとは、だれかのいばしょになれる”
唯ちゃんはそのページを開いたまま、僕に渡す。
「あなた、絶対いい先生になるよ」
その瞬間。
初めてだった。
“未来の自分”を、少し好きになれた気がした。




