魔法少女の映画
夏休み前の日曜日。
朝。
山本家は、異様に早起きだった。
理由は――
『劇場版 キラリン☆ミラクルプリズムハート ~宇宙と七色の魔法石~』
長い。
結愛がハマっている魔法少女アニメの映画。
しかも今日、公開初日。
結愛、朝5時起床。
早すぎる。
リビングでは、すでに変身済み。
しゃもじ装備。
リボン装備。
なぜかサングラスも継続。
優月、眠そうに笑う。
「まだ朝だよ……」
結愛、超真剣。
「えいがは、たたかい」
気合いの方向がおかしい。
唯ちゃんが、ポップコーン用バッグを準備していると。
結愛が突然聞く。
「まほうしょうじょ、ほんとにいるかな?」
少し静かになる。
僕が答えようとすると。
優月が先に言った。
「いると思うよ」
結愛、目を丸くする。
「どこ?」
優月は笑った。
「“誰かを元気にする人”って、ちょっと魔法少女っぽくない?」
その言葉に。
結愛は、すごく真剣な顔で頷いた。
「ゆあぴかだ」
自己肯定感が高い。
映画館到着。
すると――
同じような魔法少女衣装の子どもたちがいっぱい。
結愛、大興奮。
「なかまがいる!!」
走りそうになる。
危ない。
ポスター前。
結愛、記念撮影。
ポーズが完全にヒーロー。
優月、大笑い。
上映開始。
館内が暗くなる。
結愛、少しドキドキしてる。
そして――
映画スタート。
変身シーン。
大迫力。
キラキラ。
音楽。
結愛、完全に前のめり。
ポップコーン食べるの忘れてる。
でも。
映画の途中。
魔法少女が、一度負けるシーン。
“もう無理かもしれない”
そう泣く場面。
結愛、静かになる。
優月も、じっと見ていた。
そして。
仲間たちが言う。
『一人じゃないよ』
『あなたの笑顔に助けられたんだよ』
その瞬間。
結愛、小さく呟く。
「ゆづきみたい……」
優月、少しびっくりした顔をする。
映画のラスト。
魔法少女は、最後まで諦めずに立ち上がる。
キラキラの魔法。
宇宙いっぱいの光。
そして。
みんな笑顔。
エンディング曲が流れる頃には――
結愛、号泣。
「うぅぅぅ……」
ポロポロ泣いてる。
優月も、ちょっと目が赤い。
唯ちゃんは、優しく笑いながらハンカチを渡していた。
映画館を出たあと。
結愛は、しばらく無言だった。
でも。
外へ出て空を見た瞬間。
突然、しゃもじを掲げる。
「ゆあぴか、がんばる!!」
周囲の人、ちょっと見る。
優月、笑い崩れる。
帰り道。
結愛は、映画の話をずっとしていた。
「あそこかっこよかった!」
「あのまほう、すごかった!」
「ともだちってだいじ!」
でも。
途中で急に静かになる。
それから。
小さく言った。
「ゆあも、“だいじょうぶ”っていえるひとになりたい」
その言葉に。
僕は少し胸が熱くなる。
たぶん。
結愛は、ただキラキラに憧れてるんじゃない。
“誰かを助けられる優しさ”に憧れてるんだ。
家へ帰ると。
優月は、すぐスケッチブックを開いた。
今日の映画。
泣いてた結愛。
キラキラの光。
そして。
映画館を出たあと、空へしゃもじを掲げる“ゆあぴか”。
タイトルは――
『ほんもののまほう』
その絵は。
今までで一番、光がいっぱいだった。
その時。
結愛が、眠そうに言った。
「つぎ、10かいみる」
優月、即ツッコミ。
「映画館住む気!?」
家族全員、大爆笑。
夏の始まり。
山本家の毎日は、今日もキラキラしていた。




