ゆあぴかの絵本
夏が近づき始めた頃。
結愛――いや、“ゆあぴか”は。
さらに進化していた。
最近のお気に入りは――
変身バンク。
本格的。
音楽まで口でやる。
「てれてれってって〜♪」
自作。
その日も。
リビングの真ん中で、変身開始。
くるっ。
ぴょん。
しゃもじ掲げる。
「えがおとっ!!」
ポーズ。
「ぷりんのちからでっ!!」
何の力。
「きらりーんっ☆ゆあぴか!!」
勢いよく回転。
そして。
ソファへ激突。
ドンッ。
数秒静止。
優月、崩れ落ちるくらい笑ってる。
唯ちゃん、涙出てる。
僕も耐えられない。
でも。
結愛は立ち上がる。
髪ボサボサ。
「てきがつよかった……」
プロ根性。
その日の午後。
優月が突然言った。
「結愛、“ゆあぴかの絵本”作ろうか?」
結愛、停止。
「……えほん?」
目がどんどんキラキラしていく。
「ほしい!!」
ということで。
優月による――
“魔法少女ゆあぴか絵本プロジェクト”開始。
リビングに画用紙を広げる。
優月は、真剣に描き始めた。
一ページ目。
泣いてるぬいぐるみ。
そこへ現れる、ゆあぴか。
しゃもじ装備。
結愛、大興奮。
「かっこいい!!」
優月は笑いながら続ける。
次のページ。
“くらやみまじょ”登場。
部屋を真っ暗にする敵。
でも。
ゆあぴかは、懐中電灯を持って言う。
『だいじょうぶ!』
結愛、拍手。
「これほんとにあった!!」
実話ベース。
さらに。
“おこりんぼうドラゴン”。
“ブロッコリーまじょ”。
“ねむねむモンスター”。
敵がだいぶ平和。
その時。
結愛が急に聞いた。
「ゆあぴか、さいごどうなるの?」
優月は、少し考えた。
鉛筆を止める。
それから。
静かに描き始める。
最後のページ。
大きなケーキ。
笑ってる家族。
その真ん中に、ゆあぴか。
下には、小さく書いてあった。
『みんながわらうと、まほうはもっとつよくなる』
結愛は、その文字をじっと見ていた。
数秒後。
小さく言う。
「……これ、すき」
その声が、すごく優しかった。
夜。
絵本完成記念。
山本家・読み聞かせ大会。
結愛は、ソファに正座。
超真剣。
優月が読む。
『あるところに――』
ページをめくるたび。
結愛は笑ったり。
驚いたり。
時々、拍手したり。
まるで本当に“ゆあぴか”が存在してるみたいだった。
でも。
最後のページに来た時。
結愛は、急に静かになる。
『みんながわらうと、まほうはもっとつよくなる』
その文字を見ながら。
ぽつりと言った。
「じゃあ、ゆあぴか、ずっとまほうつかえるね」
優月が聞き返す。
「なんで?」
結愛は、当たり前みたいに言う。
「やまもとけ、ずっとわらってるから」
その瞬間。
リビングが少し静かになった。
唯ちゃんは、優しく笑っていた。
僕も、胸がじんわり温かくなる。
たぶん。
本当にそうなんだと思う。
笑い声って。
家を明るくする魔法なんだ。
その時。
結愛が、急に立ち上がる。
しゃもじ掲げる。
「ゆあぴか!!」
そして――
「つぎは、うちゅうをまもる!!」
規模デカくなった。
優月、即ツッコミ。
「急に世界観広がった!!」
家族全員、大爆笑。
山本家の夜には、今日も。
小さくて優しい魔法が、きらきら光っていた。




