まほうはわらうこと
次の日の朝。
山本家のリビング。
そこには――
完全装備の結愛。
リボン。
タオルマント。
しゃもじステッキ。
そして。
なぜかサングラス。
どこの魔法少女。
優月、朝から笑い崩れる。
「なんでサングラス!?」
結愛、真顔。
「つよそうだから」
謎理論。
その日。
結愛は、新しい設定を発表した。
「ゆあぴかは、“みんなをにこにこにするまほうしょうじょ”!」
平和すぎる。
すると。
唯ちゃんが拍手。
「いい魔法少女だねぇ」
結愛、ドヤ顔。
でも。
問題はここから。
結愛。
本気で魔法を使おうとし始めた。
庭で。
しゃもじを掲げる。
「おはなさけぇぇぇ!!」
もちろん何も起きない。
数秒沈黙。
結愛、困る。
優月が笑いながら言う。
「魔法って、すぐ出ないんじゃない?」
結愛、真剣。
「れんしゅういるか……」
努力型だった。
その日から。
結愛の“魔法修行”が始まる。
まず。
ぬいぐるみを並べる。
「みんな、げんきになるまほうかけます!」
そして。
しゃもじを振る。
「きらりんっ☆」
勢い余って、自分の頭にゴツン。
痛そう。
でも。
泣かない。
「……つよくなる」
根性すごい。
優月は、そんな結愛を見ながら、何かを作り始めていた。
折り紙。
ペン。
キラキラシール。
数時間後。
完成。
“ゆあぴか変身カード”。
しかも。
ちゃんとイラスト付き。
裏には。
『ゆうき100%』
『えがおパワー∞』
『プリンだいすき』
最後だけおかしい。
結愛、感動。
「すごぉぉぉ!!」
目キラキラ。
そして。
胸にカードを入れて言う。
「これで、ほんもの」
優月、優しく笑った。
「うん。本物のゆあぴか」
その時。
突然。
停電。
家の電気が消える。
雨の影響だった。
部屋が暗くなる。
結愛、固まる。
「……まっくら」
少し怖そう。
すると。
優月が、小さな懐中電灯をつける。
ぽわっと明かりが広がる。
でも。
結愛は、まだ不安そう。
その時。
優月が言った。
「ゆあぴか、出番じゃない?」
結愛、ハッとする。
数秒後。
しゃもじを掲げる。
「だいじょうぶびーむ!!」
唯ちゃん、吹き出す。
僕も笑ってしまう。
でも。
その瞬間。
結愛も笑った。
暗かった空気が、一気に軽くなる。
僕は思う。
本当の魔法って。
光が出たりすることじゃなくて。
“誰かを安心させること”なのかもしれない。
数分後。
電気が戻る。
部屋が明るくなる。
結愛、勝ち誇る。
「ゆあぴかがなおした」
優月、即ツッコミ。
「電力会社さんだよ」
家族全員、大爆笑。
夜。
寝る前。
優月は、スケッチブックに今日の絵を描いていた。
暗い部屋。
小さな懐中電灯。
しゃもじを掲げる結愛。
そして。
みんなの笑顔。
タイトルは――
『まほうは、わらうこと』
その文字を見て。
僕は、静かに笑った。
山本家には今日も。
ちょっとドジで。
でも優しい魔法少女がいた。




