魔法少女ゆあぴか
ある日の夕方。
結愛が、テレビの前で固まっていた。
画面の中では――
キラキラの魔法少女。
変身。
リボン。
ステッキ。
「みんなを守るよ!」
ド派手な演出。
キラキラ。
ピカーン。
そして。
敵を倒す。
結愛、完全停止。
数秒後。
「……なりたい」
始まった。
その日から。
山本家に、新しい存在が誕生した。
その名も――
“まほうしょうじょ・ゆあぴか”。
自称。
まず。
衣装。
タオルをマントにする。
唯ちゃんのヘアゴムを腕につける。
ステッキ代わりに、しゃもじ。
危険。
優月、大爆笑。
「しゃもじ!?」
結愛、真剣。
「まほうのぶき」
絶対ご飯よそうタイプ。
そして。
変身シーン。
リビングの真ん中へ立つ。
くるっ。
ぴょん。
「きらりんっ☆ゆあぴかへんしん!!」
勢いで転ぶ。
ドスン。
数秒静止。
僕と唯ちゃん、吹き出す。
優月なんて笑いすぎて座り込んでる。
でも。
結愛は諦めない。
立ち上がる。
「いまのは、れんしゅう」
強い。
その日から。
家の中の平和は、“ゆあぴか”によって守られることになった。
まず。
掃除機。
「わるもの!!」
ステッキしゃもじで攻撃。
唯ちゃん困る。
次。
ブロッコリー。
「にがいまじょ!」
偏食を敵認定。
そして。
僕。
ソファで寝転がってると――
「なまけものビーム!!」
クッション飛んでくる。
地味に痛い。
優月は、そんな結愛を見ながらずっと笑っていた。
でも。
ある日。
少しだけ事件が起きる。
結愛が、公園で魔法少女ごっこをしていた時。
近くの男の子たちに笑われた。
「なにそれー!」
「子どもっぽ!」
結愛、固まる。
その瞬間。
少しだけ顔が曇った。
帰り道。
珍しく静か。
家へ帰っても、しゃもじを持たない。
優月は、その様子に気づいていた。
夜。
優月は、自分の部屋から何かを持ってくる。
画用紙。
クレヨン。
そして。
描き始めた。
数十分後。
完成。
そこには――
“まほうしょうじょ・ゆあぴか”。
キラキラ。
笑顔。
大きなリボン。
しかも。
背景は虹。
優月は、その絵を結愛へ渡した。
「これ、結愛」
結愛、ぽかん。
「……ゆあ?」
優月は笑う。
「うん。すごく強そう」
結愛の目が、少しずつ輝き始める。
「つよい?」
「うん」
優月は、まっすぐ言った。
「好きなものを好きって言えるの、かっこいいよ」
リビングが静かになる。
僕も唯ちゃんも、その言葉を聞きながら優しく笑った。
結愛は、絵をぎゅっと抱きしめる。
そして。
小さく言った。
「……またへんしんする」
数秒後。
しゃもじ復活。
早い。
「きらりんっ☆」
勢いよく回る。
また転ぶ。
優月、爆笑。
でも今度は。
結愛も一緒に笑っていた。
夜。
寝る前。
結愛は、布団の中で優月に聞いた。
「ゆづきは、なにになりたい?」
優月は、少し考える。
それから。
小さく笑った。
「……ケーキで笑顔にする人かな」
結愛、うんうん頷く。
「ゆづきも、まほうつかいだね」
その言葉に。
優月は、少し照れながら笑った。
窓の外には、静かな星空。
山本家には今日も、小さな魔法みたいな時間が流れていた。




