好きなことをしてる時の人って、すごく綺麗なんだなって。
六月。
雨の季節。
外では、しとしと雨が降っていた。
でも――
山本家のキッチンだけは、今日もにぎやかだった。
最近。
優月は、完全に“ケーキ職人モード”。
学校から帰ると。
まず冷蔵庫を見る。
「生クリームある?」
確認がプロ。
結愛は、そんな優月の後ろをついて歩く。
「きょうなにつくるの?」
もう弟子。
その日。
優月が、真剣な顔で言った。
「今日は、“レインボーケーキ”作る」
結愛、ぽかん。
「にじ!?」
目キラキラ。
唯ちゃんまで驚く。
「難しそう……」
でも。
優月はやる気だった。
スポンジを、色ごとに分ける。
赤。
青。
黄色。
緑。
カラフル。
結愛は、そのボウルを見て大興奮。
「えのぐみたい!!」
危険な発言。
案の定。
数分後。
結愛の服に青いクリーム。
しかも。
ほっぺにもついてる。
優月、大爆笑。
唯ちゃんなんて笑いすぎて座り込んでる。
僕が聞く。
「なんで顔につくの?」
結愛、真顔。
「わからない……」
永遠の謎。
焼き上がったスポンジを重ねる。
カラフル。
まるで絵本。
優月は、真剣にクリームを塗っていた。
前より、すごく丁寧。
静かに集中してる。
その横顔を見ながら。
僕は思う。
好きなことをしてる時の人って、すごく綺麗なんだなって。
そして――
完成。
真っ白なケーキ。
外からは普通。
でも。
切った瞬間――
「うわぁぁぁ!!」
中から虹色。
結愛、拍手。
飛び跳ねる。
危ない。
優月も、嬉しそうに笑っていた。
その時。
唯ちゃんが、ぽつりと言う。
「なんか、“楽しい”をケーキにしたみたい」
その言葉が、ぴったりだった。
でも。
事件は終わらない。
写真を撮ろうとした瞬間。
結愛。
テーブルに肘をつく。
グラッ。
全員。
「「あぁぁぁ!!」」
ケーキ、傾く。
数秒の静止。
奇跡的にセーフ。
結愛、真っ青。
「にじがぁ……」
すると。
優月が、少し笑って言った。
「大丈夫。倒れても、美味しいから」
その一言で。
結愛の顔が、少し戻る。
僕は、その優しい言葉に少し驚いた。
前なら。
優月も、一緒に慌ててた。
でも今は。
ちゃんと“安心させる側”になってる。
夜。
みんなでレインボーケーキを食べる。
甘い。
ふわふわ。
そして。
見てるだけで楽しい。
結愛は、フォークを持ちながら言った。
「ゆづきのけーき、げんきでる」
優月、少し照れる。
でも。
嬉しそうだった。
そのあと。
優月は、ノートへ今日の感想を書いていた。
『失敗しそうでも、最後までやると楽しい』
その文字を見て。
僕は静かに笑った。
ケーキ作りって。
ただのお菓子作りじゃなくて。
失敗したり。
助け合ったり。
笑ったり。
そういう“毎日”そのものなんだなって。
その時。
結愛が、眠そうに言う。
「つぎ、うちゅうけーきつくる……」
優月、吹き出す。
「規模どこまでいくの」
家族全員、大笑い。
雨の夜。
山本家のキッチンには、今日も甘い幸せが広がっていた。




