好きなことって。 続けてるうちに、“誰かのため”に変わることがあるんだなって。
ケーキ屋さん巡りから数日後。
山本家のキッチンは――
完全に“研究所”になっていた。
冷蔵庫には、生クリーム。
チョコ。
フルーツ。
クリームチーズ。
なぜか大量のいちご。
唯ちゃんが苦笑いする。
「うち、パティシエ住んでる?」
優月は真剣だった。
スケッチブックには、“作りたいケーキ一覧”。
ショートケーキ。
チーズケーキ。
チョコケーキ。
フルーツタルト。
ミルクレープ。
そして。
結愛が勝手に書いた――
“ぷりんたわー”。
危険。
最初の挑戦は――
チーズケーキ。
優月は、動画を見ながら慎重に作る。
唯ちゃんはサポート。
結愛は――
味見担当。
まだ焼いてない。
「まだだよ」
って言われるたび、しょんぼりしてる。
クリームチーズを混ぜる。
卵を入れる。
静かに混ぜる。
前より、優月の手つきが上手くなっていた。
その横で。
結愛。
生地を見ながら言う。
「これ、ぷりんになる?」
全部プリン基準。
焼き上がる。
ふわぁっと甘い香り。
結愛、オーブン前で拍手。
「できてるぅぅ!!」
冷やして、完成。
一口食べる。
しっとり。
優しい甘さ。
優月、目を丸くする。
「……お店っぽい」
唯ちゃんも驚いていた。
「ほんとに美味しい」
その瞬間。
優月の顔が、ぱあっと明るくなる。
“自分で作れた”
その嬉しさが、顔いっぱいに出ていた。
でも。
山本家は、ここで終わらない。
次の週。
チョコレートケーキ。
ここで事件。
チョコを溶かしていた結愛。
突然。
「あつっ!!」
慌てる。
優月がすぐ手を取る。
「大丈夫!?」
幸い、少し熱かっただけ。
でも。
結愛、半泣き。
その時。
優月が、そっと冷たいタオルを当てながら言った。
「料理って、楽しいけど気をつけないと危ないんだよ」
結愛、小さく頷く。
「……きをつける」
唯ちゃんは、その様子を静かに見ていた。
少し前まで。
優月は、守られる側だった。
でも今は。
ちゃんと“お姉ちゃん”になっている。
その日のチョコケーキは、少し焦げた。
でも。
結愛が言った。
「これ、“おとなのあじ”!」
優月、笑い崩れる。
数週間後。
ついに、フルーツタルト挑戦。
カラフルなフルーツ。
キラキラ。
まるで宝石。
優月は、配置までこだわっていた。
「色のバランス大事」
完全に職人。
結愛も手伝う。
……いや。
食べる。
いちご一個消える。
バナナ一個消える。
優月、ツッコミ。
「減ってる!」
結愛、真顔。
「てんけん」
味見しすぎ。
完成したタルトは、本当に綺麗だった。
その時。
唯ちゃんが、小さく言う。
「優月、すごく上手になったね」
優月は、少し照れながら笑った。
でも。
その目は、すごく嬉しそうだった。
夜。
みんなで食べながら。
優月がぽつりと言う。
「最初は、“作ってみたい”だったけど……」
少し考える。
それから。
「今は、“みんなに食べてほしい”になった」
その言葉に。
僕は少し胸が熱くなる。
好きなことって。
続けてるうちに、“誰かのため”に変わることがあるんだなって。
その時。
結愛が、口いっぱいにタルトを入れながら言った。
「ゆづきのけーき、しあわせのあじ!」
優月、吹き出す。
でも。
少しだけ目が潤んでいた。
窓の外では、五月の夜風。
キッチンには、甘い匂い。
山本家の“ケーキ研究”は。
まだまだ終わりそうになかった。




