ケーキ
ある日の朝。
突然。
優月が真剣な顔で言った。
「……ケーキ、もっと勉強したい」
僕は聞き返す。
「勉強?」
すると。
横で結愛が、元気よく言った。
「けーきやさんめぐり!!」
ただ食べたいだけでは?
でも。
唯ちゃんが笑いながら頷いた。
「いいね。せっかくだし、“研究”しよっか」
その瞬間。
結愛、ガッツポーズ。
「けんきゅう!!」
絶対意味分かってない。
ということで。
山本家女子チームによる――
“ケーキ屋さん研究ツアー”開催。
最初のお店。
小さな洋菓子店。
ショーケースの中には、宝石みたいなケーキ。
いちごタルト。
モンブラン。
チーズケーキ。
結愛、ショーケースに張りつく。
「きらきらしてる……」
優月は、真剣だった。
ただ“美味しそう”じゃなく。
クリームの絞り方。
フルーツの置き方。
色のバランス。
ちゃんと見てる。
唯ちゃんは、その横で優しく笑った。
「優月、職人みたい」
優月、少し照れる。
でも。
目は本気。
そして。
結愛。
「これぜんぶたべたい」
夢がでかい。
店内でケーキを食べる。
優月は、フォークを入れながら驚いた。
「スポンジ、ふわふわ……」
唯ちゃんも頷く。
「口の中で溶けるね」
その横で。
結愛。
三口目。
早い。
しかも。
ほっぺクリームだらけ。
優月、大爆笑。
二軒目。
少しおしゃれなカフェ。
ここでは、“見せ方”の勉強。
お皿。
ソース。
飾り。
全部が芸術みたい。
優月は、静かにメモしていた。
「ケーキって、“かわいい”も大事なんだ」
唯ちゃんが言う。
「食べる前にワクワクするもんね」
その時。
結愛が、小さく言った。
「しあわせのたべものだね」
その言葉に。
優月と唯ちゃんが、少し静かになる。
たしかに。
ケーキって。
誕生日。
お祝い。
ご褒美。
嬉しい日にあることが多い。
だから、“幸せの味”なのかもしれない。
三軒目。
昔ながらのケーキ屋さん。
ショートケーキが有名。
優月は、一口食べて驚いていた。
「なんか……やさしい味」
派手じゃない。
でも。
食べるとホッとする。
唯ちゃんも、小さく笑う。
「長く愛されるお店って、こういう味なんだろうね」
その時。
結愛が真顔で言った。
「おばあちゃんちのあじ」
みんな、少し驚く。
でも。
なんだか分かる気がした。
甘さだけじゃなくて。
安心する味。
帰り道。
三人は、いっぱい話していた。
「次はチョコケーキ作りたい」
「フルーツいっぱい乗せたい」
「お店みたいにしたい!」
結愛は、途中から眠そう。
でも。
最後に小さく呟いた。
「けーきって、にこにこになるね」
優月は、その言葉に静かに頷いた。
家へ帰ると。
優月は、すぐスケッチブックを開く。
今日見たケーキ。
クリーム。
飾り。
笑ってる結愛。
それを描きながら、ぽつりと言った。
「いつか、“みんなが笑うケーキ”作れたらいいな」
唯ちゃんは、優しく頭を撫でる。
「優月なら作れるよ」
その瞬間。
結愛が元気よく手を挙げた。
「ゆあ、たべるひと!!」
優月、吹き出す。
「超重要係じゃん」
家族全員、大笑い。
甘い匂いの余韻が残る夜。
山本家の夢は、また少し増えていた。




