僕も頷く。 “楽しい”って。 完璧じゃなくていい。 失敗しても。 笑えたら、それでいいんだと思う。
日曜日。
朝から、山本家の空気が違った。
理由は――
結愛の一言。
「きょう、けーきやさんする」
昨日の宣言。
本当に実行する気だった。
優月は、少し笑いながらエプロンをつける。
唯ちゃんも、髪をまとめながら言う。
「今日は大変そうだなぁ」
僕は、すでに予感していた。
絶対、粉まみれになる。
今回作るのは――
いちごのショートケーキ。
理由。
結愛が“いちご村”を使いたかったから。
庭で採れたいちごを、みんなで収穫。
結愛、超真剣。
「これは、けーきえりーと」
選ばれし苺らしい。
優月、大笑い。
キッチン。
材料が並ぶ。
生クリーム。
卵。
小麦粉。
砂糖。
いちご。
その光景だけで、なんだか幸せ。
まずは、スポンジ作り。
唯ちゃんが丁寧に教える。
「泡立てる時はね――」
その横で。
結愛。
全力。
シャカシャカシャカシャカ!!
早すぎる。
ボウルごと動いてる。
優月、笑い崩れる。
「待って待って!」
その瞬間。
生クリーム、飛ぶ。
しかも。
僕の顔直撃。
数秒沈黙。
結愛、青ざめる。
「……ぱぱ、しろい」
唯ちゃん、お腹抱えて笑ってる。
優月なんて、立てないくらい笑ってる。
僕も、結局吹き出した。
「雪男かな?」
すると。
結愛、安心した顔。
「かわいい!」
四十代目前の雪男。
スポンジを焼いている間。
今度はデコレーション会議。
優月は、雑誌を見ながら考えていた。
「おしゃれにしたい」
すると。
結愛。
「ぷりんのせる?」
ブレない。
優月、即ツッコミ。
「ショートケーキだから!」
でも。
少し考えてから笑う。
「……小さいのならアリかも」
採用された。
数時間後。
ついに完成。
真っ白な生クリーム。
赤いいちご。
少し不揃い。
でも。
世界で一番“山本家っぽい”ケーキだった。
しかも中央には――
小さなプリン。
結愛、大満足。
「かんぺき……」
その時。
優月が、最後に小さなチョコプレートを書く。
『みんなでつくったケーキ』
その文字を見た瞬間。
なんだか胸がじんわりした。
ケーキって。
見た目だけじゃなくて。
“誰と作ったか”まで味になるんだなって。
夕方。
みんなでケーキを囲む。
結愛は、待ちきれない。
「まだ!?」
早い。
切り分ける。
フォークを入れる。
ふわふわ。
一口食べる。
そして――
「おいしぃぃぃぃ!!」
今日も絶叫。
でも。
本当に美味しかった。
少し形が崩れてても。
クリームが uneven でも。
そんなの、どうでもよくなる味だった。
その時。
優月が、小さく言った。
「なんか、今日ずっと笑ってた気がする」
唯ちゃんが優しく笑う。
「それが一番だよ」
僕も頷く。
“楽しい”って。
完璧じゃなくていい。
失敗しても。
笑えたら、それでいいんだと思う。
その時。
結愛が、口の周りクリームだらけで言った。
「つぎ、100だんけーきつくる」
優月、吹き出す。
「店開けるレベル!」
家族全員、大爆笑。
甘い香りと笑い声の中。
山本家の夜は、今日も幸せでいっぱいだった。




