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お菓子作り

土曜日の午後。


外は少し雨。


山本家のリビングには、甘い匂い――


……は、まだしていない。


なぜなら。


これから“事件”が始まるから。


その日。


優月が突然言った。


「結愛、一緒にお菓子作る?」


結愛、数秒停止。


そして――


「つくるぅぅぅ!!」


ジャンプ。


危うくテーブルに頭ぶつける。


今回作るのは。


クッキー。


理由。


唯ちゃん曰く。


「比較的、平和だから」


甘かった。


キッチン。


エプロン姿の優月。


ちょっとお姉さんっぽい。


結愛もエプロン。


でも。


なぜか頭にタオル巻いてる。


職人感すごい。


まずは、生地作り。


小麦粉。


卵。


バター。


砂糖。


優月は、ちゃんとレシピを見ながら慎重。


その横で。


結愛。


砂糖を入れようとして――


ドサァッ!!


量がおかしい。


優月、固まる。


僕と唯ちゃん、吹き出す。


結愛、真顔。


「おおもり」


ラーメン感覚やめて。


そのあとも。


卵を割ろうとして殻ごと入れる。


粉を混ぜて雪みたいに飛ばす。


気づけば。


キッチンが真っ白。


唯ちゃん、小声。


「戦場かな……」


優月、笑いながら片付けてる。


でも。


怒らない。


「結愛、次はゆっくりね」


その声が、すごく優しかった。


型抜きタイム。


星。


ハート。


うさぎ。


色んな形。


優月は綺麗。


でも。


結愛。


謎の形量産。


「これなに?」


って聞くと。


「ぷりんざうるす」


新種また増えた。


しかも。


本人めちゃくちゃ自信満々。


オーブンへ入れる。


数分後。


甘い匂いが広がる。


その瞬間。


結愛、オーブンの前から動かない。


「まだ?」


「まだ?」


「まだ!?」


優月、大笑い。


ついに完成。


こんがり焼けたクッキー。


ちょっと焦げたのもある。


形が変なのもある。


でも。


すごく美味しそうだった。


結愛は、自分の“ぷりんざうるす”を持ち上げる。


「できたぁぁ……」


感動してる。


一口食べる。


サクッ。


そして。


「おいしぃぃぃ!!」


また家中に響く。


その時。


優月が、小さく笑った。


「結愛、自分で作るともっと美味しいでしょ?」


結愛、頷く。


「まほうみたい」


その言葉に。


僕は少し胸が温かくなる。


“作る”って。


完成だけじゃなくて。


一緒に失敗したり。


笑ったり。


そういう時間ごと楽しいんだなって。


その時。


結愛が、急にクッキーを一枚持って唯ちゃんへ渡した。


「まま、ありがとう」


唯ちゃん、少し驚く。


「え?」


結愛は、照れながら言う。


「いつもごはんつくってくれるから」


その瞬間。


リビングが少し静かになる。


唯ちゃんは、優しく笑ってクッキーを受け取った。


「……ありがとう」


優月も、そのやり取りを見ながら静かに笑っていた。


夜。


残ったクッキーを缶に入れる。


優月が、小さくラベルを書く。


『やまもとクッキーやさん』


その横で。


結愛も書こうとして――


謎のぐるぐる。


でも。


それがなんだか、すごく山本家らしかった。


その時。


結愛が、眠そうに言う。


「つぎ、けーきやさんする……」


優月、吹き出す。


「レベル上がってる」


家族全員、大笑い。


甘い匂いに包まれながら。


山本家の夜は、今日も優しく更けていった。


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