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はじてのいちご

五月のある土曜日。


朝から、山本家は大騒ぎだった。


理由は――


庭のいちご。


ついに、一個だけ赤くなった。


結愛、超興奮。


「できてるぅぅぅ!!」


優月まで走って見に来る。


小さな赤いいちご。


まだ一個だけ。


でも。


なんだか宝物みたいだった。


唯ちゃんが笑う。


「初収穫だね」


すると。


問題発生。


“誰が食べるか”。


結愛、即答。


「ゆあ!」


早い。


優月も苦笑い。


「絶対言うと思った」


僕が冗談で言う。


「じゃあジャンケン?」


すると。


結愛、急に真顔。


「……まけるかも」


弱気。


家族全員、吹き出す。


でも。


そのあと。


優月が、小さく言った。


「結愛が食べていいよ」


結愛、びっくり。


「いいの?」


優月は笑った。


「毎日水あげてたし」


その瞬間。


結愛の顔が、ぱあっと明るくなる。


「やったぁぁ!!」


でも。


いざ食べる直前。


結愛は、いちごを見つめながら止まった。


数秒後。


小さく聞く。


「……はんぶんこする?」


僕たち、少し驚く。


優月も、きょとん。


結愛は、照れくさそうに言った。


「ゆづきも、おみずしたから」


その言葉に。


唯ちゃんが、優しく笑った。


僕も、胸がじんわり温かくなる。


優月は、少し照れながら頷いた。


「じゃあ半分ね」


小さないちごを、半分こ。


二人で一口。


そして――


「「あまーい!!」」


声そろった。


家族全員、大笑い。


たった一個のいちごなのに。


なんだか、すごく幸せだった。


そのあと。


結愛は、急にやる気になる。


「もっとそだてる!!」


すると。


次の日から、水やりが超本気。


ただし。


水かけすぎ。


土びしゃびしゃ。


唯ちゃん、笑いながら止めてる。


その横で。


優月は、新しい絵を描いていた。


小さないちご。


並んで笑う結愛と自分。


そして。


その上に、大きくタイトル。


『はじめてのいちご』


僕は、その絵を見ながら思う。


優しさって。


すごく大きいことじゃなくて。


“半分こしよう”って言える気持ちなのかもしれない。


夜。


夕飯のあと。


みんなで庭を見る。


まだ青いいちごが、たくさん揺れている。


結愛は、腕組みして真剣。


「これは、いちごむら」


優月、吹き出す。


「村なんだ」


結愛は、うんうん頷く。


「ゆあと、ゆづきのむら!」


その瞬間。


優月が、小さく笑った。


「じゃあ、また一緒に育てようね」


結愛、満面の笑み。


「うん!!」


春の終わりの夜風が、庭をゆっくり揺らしていた。


小さいけれど。


山本家にとっては、とても大事な“初めてのいちご”の日だった。


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