五月
五月。
春が少しずつ終わって。
風の匂いが変わり始める頃。
山本家の毎日も、少しずつ新しい季節へ向かっていた。
朝。
庭の家庭菜園。
小さかったトマトの苗が、少し大きくなっている。
結愛は、毎朝確認。
「おおきくなってる!!」
昨日とほぼ同じでも言う。
優月は、その様子を絵日記に描いていた。
『トマト、せがのびた』
横には、得意げな結愛の絵。
唯ちゃんは、花の手入れをしながら笑う。
「五月って、“育つ季節”だね」
その言葉が、なんだか優しかった。
ゴールデンウィークも始まった。
でも。
山本家は、遠出ばかりじゃない。
近所の公園へ行ったり。
アイス食べたり。
川沿いを散歩したり。
そういう小さい休日が多かった。
ある日。
みんなで自転車に乗って、大きな公園へ行くことになった。
新緑。
青空。
風。
結愛は、補助輪付き自転車で必死。
「まってぇぇ!!」
全然追いつけてない。
優月は、少しスピードを落として待ってあげていた。
なんだか、お姉ちゃんらしくなってきた。
公園では。
大きな芝生。
ボール遊び。
シャボン玉。
結愛は、全力疾走。
数分後。
転ぶ。
でも。
泣かない。
「いたかった……」
って言いながら笑ってる。
強くなったなって思った。
昼。
みんなで木陰に座ってお弁当。
おにぎり。
卵焼き。
唐揚げ。
外で食べるだけで、なんでこんなに美味しいんだろう。
優月は、芝生に寝転がりながら空を見ていた。
「雲、夏っぽくなってきた」
僕も空を見る。
たしかに。
春の空より、少し明るくて大きい。
季節が動いてる。
その時。
結愛が突然叫ぶ。
「みてぇぇ!!」
振り向く。
シャボン玉だらけ。
しかも、自分で追いかけて転びそうになってる。
優月、大笑い。
唯ちゃんまで吹き出す。
でも。
シャボン玉の中で笑ってる結愛は、本当に楽しそうだった。
夕方。
帰り道。
みんな少し疲れて静か。
結愛は、自転車に乗ったまま半分寝てる。
危ない。
優月は、今日のスケッチを見せてくれた。
芝生。
空。
シャボン玉。
そして。
笑ってる結愛。
その絵を見て、僕は思う。
優月の絵って。
“楽しかった気持ち”を残すのが上手なんだなって。
夜。
お風呂のあと。
みんなでアイス。
結愛は、アイス食べながら眠そう。
「ごがつも、たのしいねぇ……」
優月が、小さく笑った。
「まだ始まったばっかだよ」
結愛、びっくりした顔。
「えっ」
家族全員、大爆笑。
五月の夜。
山本家の毎日は、今日もゆっくり育っていた。




