四月
四月。
新学期が始まった。
朝の空気も、少し春らしくなっている。
桜。
新しいランドセル。
少し大きめの制服。
町の景色が、“新しい始まり”でいっぱいだった。
山本家も同じ。
優月は、一つ学年が上がった。
結愛も、少しだけお姉さん気分。
……本人だけ。
朝。
優月は、新しいクラス表を見ながら少し緊張していた。
「どんな人いるかな」
僕は笑う。
「優月なら大丈夫だよ」
すると。
結愛が横から言う。
「ゆづき、えうまいからだいじょうぶ!」
謎の励まし。
でも。
優月は少し嬉しそうだった。
学校へ向かう道。
桜の花びらが風で舞っている。
優月は、その景色を静かに見ていた。
「春って、なんか始まる感じする」
その言葉が、なんだか優月らしかった。
放課後。
帰ってきた優月は、少し疲れていたけど、どこか明るい顔だった。
「どうだった?」
すると。
優月は、靴を脱ぎながら笑った。
「絵好きな子いた」
その声に、嬉しさが混ざっていた。
聞けば。
休み時間に、ノートへ描いていた沖縄の絵を見て話しかけてくれたらしい。
「その海きれいだね」って。
優月は、少し照れながら話す。
「今度、一緒に描こうってなった」
僕は、その話を聞きながら思う。
絵が、“人と繋がるもの”になってるんだなって。
夜。
夕飯のあと。
優月は、リビングで新しいスケッチブックを開いていた。
表紙は真っ白。
まだ何も描かれていない。
結愛が、横から覗き込む。
「なにかくの?」
優月は、少し考えてから言った。
「今年の思い出」
その言葉に。
唯ちゃんが優しく笑う。
「またいっぱい増えそうだね」
優月は頷く。
それから。
一ページ目に、小さく描いた。
桜。
青空。
並んで歩く家族。
そして、下に一言。
『あたらしい春』
その字を見た時。
僕は、なんだか胸がじんわりした。
去年より。
優月は、ちゃんと前を向いている。
楽しいことを見つけて。
好きなものを増やして。
少しずつ、自分の世界を広げている。
その時。
結愛が突然、自分のクレヨン画を見せてきた。
そこには――
桜とプリン。
もう混ぜるのが当たり前になってる。
優月、吹き出す。
「またプリンいる!」
結愛、得意げ。
「はるぷりん!」
新シリーズ始まった。
家族全員、大笑い。
春の夜。
新しい一年が、静かに始まっていた。




